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虚構日記:卵頭

夢を見た。

わたしは作業服を着ていて、薄灰色のコンクリートで舗装された、なだらかな坂道の前に立っていた。

気温は暑くも寒くもなく心地いい。
まわりの景色は見えないけれど小さな山の中腹であるような気がした。
この坂を下った先の土地がほんの少し平坦に開けていて、そこにわたしの畑があるのだった。

坂道を下って畑に到着する。
畑の周囲は雑草が生い茂った藪になっていて、開かれた藪の中に六つの小さな畝が並んでいる。今は何も植わっていないようで、きれいに整えられた健康的な濃茶の土だけがこんもりと盛り上がっていた。

その小さな畑の上で、ウズラのヒナのような小さな鳥が数羽動いていた。
ミミズを探しているのか、地面を足で蹴ったり、ついばんだりしている。
なんと可愛い。
わたしが育てているのであれば、放し飼いはしないだろうから野生の鳥だろう。

どこから来た子たちだろうと思いつつ眺めていると、頭の部分がどうもおかしいことに気がついた。
よく見れば、身体は普通のヒナだが、頭部が卵の形をしていた。
卵は朝陽を受けオレンジ色に輝いていた。

その卵の中に孵る直前のヒナの姿が浮かんでいる。

脈々と波打つ赤の中で黒い目がじっとこちらを見つめていた。

とつぜん、向こうの藪をかき分けて作業服を着た男性があらわれた。
その男性の頭部もまた卵になっていて、オレンジの光の中、孵る直前のヒナがぎゅっとうずくまっていた。
男性は鍬を片手に、一番奥にある畑を耕しはじめた。

みんなの頭部が割れなければいいな、と思いつつ、卵頭に占領されたわたしの畑をぼんやりと眺めていた。

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