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虚構日記:叔父さん

最近、十歳の少年と知り合った。
今、わたしが書いている児童小説の主人公である。
その彼から、このところ連日苦情が届いている。

どうやら、自宅をオープン設計なデザイナーズマンションにしたせいで、秘密や謎に飢えているらしい。わたしのせいなのでどうにかしろ、と言ってきた。

たしかに両親ともにミニマリストの設定にしたのはわたしだ。そのせいで彼の家には極端に物が少ない。
整頓されたクローゼット。五十音順に並んだ本棚。潜り込めない床置きのベッド。キレイだけれど小学生には面白味のない家になってしまったか。

あれこれと考えて、彼の父親には片づけが出来ない兄がいる、ということにしてみた。

自由人がいいので独身が好ましい。
民俗学か歴史学かの研究をしていて、秘密の部族が使う呪具を持っている。
普段はピーナッツバターを塗った食パンばかりを食べていて(パンがない時はピーナッツバターだけ舐めている)、冷蔵庫はない。

黒髪にヘアバンド。積み上げられた書籍に埋もれて暮らしている。インダス文字の解読に挑戦中で、自宅は都会の路地裏にある古ビルの七階。

そこまで考えて彼に提案してみると、面白いと飛び上がって喜んでくれた。

なるほど。この叔父さんと一緒に冒険させたり、危険な目にあわせたりするのも面白そうだ、なんてことは伝えずに、叔父さんの住所が書かれた紙を渡す。

彼の住む町に新しく創られた未開の地。
ふたりの出会いがどうなるか、わたしも今から楽しみでしょうがない。

さて。
彼が叔父さんに会いに行くまでに、急いで『叔父さん』の細部を作りこまなければ。

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