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虚構日記:かき氷

突然、かき氷屋を一緒にやらないかとインド人の友人から誘われた。

わたしは屋台に座っていて、今まさにラーメンの最初のひと口目をかっ食らおうというところだった。

今朝、初めて食べたかき氷にいたく感動したらしい。
気持ちは分かるが、いささか早計過ぎると思った。

夏しか売れないだろうし、氷室の維持管理費用とかで結構お金がかかると思うよと伝えるけれど、「猛暑にかき氷を売ることは人道的行いであって、儲かるか儲からないかではない」と強めの口調で言い返された。

ラーメンのスープを飲みながら、友人のかき氷論を話半分で聞いていると、突然、道路の看板を突き破って古い白の軽自動車が飛び込んできた。

友人が車に飛びつく。
何か言いながら後部座席のドアを開けると、帯のように白い冷気が溢れだしてきた。

やは、南極だ南極だ、と踊っている。
どうやら後部座席が南極とつながっているらしかった。

なるほど、この方法なら氷の維持費用はかからない。

友人が車の中に積まれた氷を掴んで握りつぶしていく。はらはらと舞う氷を慌てて持っていたレンゲで集めた。
かき氷機も不要とは恐れいった。
レンゲの中で完成された、ふわふわの人道的かき氷を食べる。

これはびっくり! 

スパイシーな後口が食欲をそそる。

この路線なら売れるかもと思ったが、次の瞬間、レンゲの中に残っていたラーメンのスープだったかもしれないと不安になった。

友人がつたない日本語で軽自動車の側面に【人道的かき氷 移どう販売中】と書きこんでいる。

満面の笑みでこちらを見る彼に、苦笑いを返すことしかできなかった。

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