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FIP(猫伝染性腹膜炎)治療の話

FIPは致死率ほぼ100%の病として2021年現在も恐れられている猫の病気である。しかし2018~2019年頃から未承認薬であるMutianと、それを提供してくれる協力病院によって治療を受け、回復するケースが多数出てきている。

認可された治療薬やワクチン等は2021年3月現在ないため、ネットや書籍などでは治療法はないと書かれている場合が多い。動物病院でFIPの診断が下されると「治療できない」と言われることがほとんどのはずである。ここでは僕の飼い猫がFIPと診断され、協力病院で治療を受けて回復するまでの事例紹介と経験談を残しておこうと思う。

前置き

この話をするうえで少し長いが前置きを書かせていただく。Mutianは未承認薬のため、一般の方がこの薬やその効能を宣伝・説明することは薬事法で禁止されている。本当に治療したい方は、ご自身で調べればすぐに詳しい情報を見つけられると思うので、協力病院で医師の診察・説明を受けたり、問い合わせていただければと思う。また、Mutianに関しては未承認薬による治療に対する賛否、治療費を集めるクラウドファンディングに対する賛否など意見の軋轢や対立が存在する。場合によっては病院に苦情がいくこともあるそうで、お世話になった病院名は伏せさせていただく。

ここではあくまで僕の飼い猫の事例とその経験に関して記述する。意見の対立を生むような意図、押し付け、誇張表現はしていないつもりだが、もし表現に不快な点あるいは問題があればソフトにご指摘いただきたければ幸いです。

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FIP発症から治療開始

猫はオスのブリティッシュショートヘア、発症時点で0歳6ヶ月、FIPのウェットタイプ初期~中期から治療開始となった。症状は食欲不振(ほぼ絶食で3-4日ほど経過)、体重減少、腹水、鼻気管支炎の悪化。投薬開始2日目頃から食欲が回復しはじめ、4日目に急速に回復して1日の適量の2倍ほど食べ始めたのが印象的だった。体力は7〜10日目頃にはだいぶ回復し、以降は安定した食欲を見せるようになる。

この頃には体力も戻ってきており、おもちゃで遊んだり家の中を走り回ったりするようになる。食事は、先生の確認と指示のもと体重増加と免疫回復のため当初は食べられるだけ与えた。1日の適量70gに対し、多くて100-110gを食べた。ある程度体重が戻ってからもドライフードを1日80-90gを与えるようにした。体重は1.75kgから3.80kgまで順調に増加し、無事に投薬期間は終わった。

FIP治療中に感じたこと

当初苦戦したのは投薬の難しさで、累計5-6カプセルほど無駄にしたが、慣れると失敗はほぼ皆無、投薬も準備を含めても5分以内に終わるようになった。投薬方法は試行錯誤したが、市販の2000円くらいの保定袋に猫を入れて妻が肩に抱き、私がピルガンで投薬〜シリンジで水を飲ませるという手法に落ち着いた。少し上を向かせてピルガンの先のカプセルで口をつつくと口が開く。その隙に口内の奥(舌の上側)にピルガンを突っ込んでカプセルを素早く入れ、口を閉じて上下に抑え、横からシリンジを差し込み少しずつ注水という形。投薬時に目を覆うと警戒が和らぐような手応えを感じた(左手で目を覆って顔を固定し、右手でピルガンとシリンジ)。

投薬の手法は猫の気質やご家庭事情(1人かそうでないか)によっても違うので参考にならないかもしれないが、保定袋は便利だと思う。洗濯ネットでも代用できるらしいが安価なのですぐに買った。また、初期は抑える側の手が噛みつきや爪で傷つきがちだったので、ホームセンターで買ったDIY用途の手袋も投薬の成功率を上げるのに役立った。こちらも怯まずに思い切って抑えられるためである。慣れてきて途中からほぼ不要になったが、目を覆って安心させる効果はあったかもしれない。

もうひとつ難儀したのはFIP以外の病気で、免疫が弱っていたからなのか鼻気管支炎がずっと続き、さらに真菌症にも罹った(一応言い訳すると室内が特別散らかってるとか汚いことはないと思います…)。なのでMutian以外に、食後に錠剤を多い時で4-5片飲ませていた。当初はMutian以上に飲ませるのに難儀したが、空腹にさせてから小皿に少量のドライフードと混ぜると食いつく勢いでまとめて食べてくれるようになり、負担が激減した。

そして、MutianによるFIP治療につきまとうのが高額な治療費である。Mutian自体が1日の投薬でおおよそ6,000~12,000円ほどかかり、それが約3ヶ月弱に渡って続くほか、診断や検査の費用がかかる。他の症状が出ている場合はその薬代や検査費もかかってくるので、トータルでざっと100~200万円ほどかかることを覚悟しなければならない。

また、Mutianを取り扱う通称「協力動物病院」の数も非常に少ない。Mutianを販売するMutian Life Sciences Co., Ltd.(Mutian社)から公式に発表されている協力病院は2020年12月時点では国内7軒に限られていた(2021年3月時点で15軒に増えたようである)。正しい診断をするために、猫を連れて遠方から通院しなくてはならないケースもある。

そこまでしても治療がうまくいかないケースもある。あくまで未承認薬であるし、FIPは診断が下されてからの平均余命が約9日間ともいわれるほど急速に進行して死んでしまうので手遅れになりやすい。

僕の場合、治療費についてはペット保険の保険金が少し出た。1回の診察当たりの上限が決まっているので総額からすれば雀の涙程度の保険金だったが、毎回のレンタカー代程度はカバーされた。僕の加入していたSBIプリズム少額短期保険は支払い対象となったが、未承認薬は保険の対象外となる場合もある。

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FIP治療に対する心の問題

治療開始直前の個人的な所感を書かせていただくと、高額な治療費と手間をかけても治療がうまくいかないか、または再発する可能性があることを覚悟するというのが最大の悩みどころだった。この病気に限らず、大きな問題が起きた時にどこまでの金額と手間なら負担するか、どこで諦めるという判断をするかという点について考えさせられた。正直なところ僕は心の諦めはついていたのだが、妻が治療を強く希望したこと、FIP確定後に協力病院にすぐアクセスして治療を開始できたことで決心がついた。また、非常にドライな言い方をすれば猫の死から立ち直って別の(あるいはよく似た)猫を探し、購入して迎え入れる一連の手間や費用を、Mutianで治療することと天秤にかけて判断したのもある。

自分の場合は治療に臨んだものの、色々な事情から治療を断念するという選択も決して責められることではないと思うし、治療するにしても色々な考え方、決心の付け方があると思う。いずれにしても今後の治療薬や治療方法の普及に期待したい。

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