「ゴッホと静物画 伝統から革新へ」展へ行ってきた
久しぶりに美術館に行った。近年開催されてきたゴッホ展にはほとんど足を運んだので、今回は見送ろうと思っていたのだが、友達が「花好きなら絶対行くべき、あなたにぴったりだったよ」と言われたので、結局行くことを決意した。
以前、SOMPO美術館を訪れたとき(シダネルとマルタン展)は、そこまで人がいなかったので、油断していたが、今日は平日のお昼過ぎにも関わらず多くの人が来館していて驚いた。おそるべしゴッホの力……(だよね…?)
ゴッホは、27歳から37歳のたった10年間を画家として過ごし、画塾に通ったのは短期間だけ、あとは美術館に足しげく通って巨匠の作品から学んだり、同世代の画家の作品を見て学んだ。
周りのみんなが就活に精を出す中、就活を完全に捨て、ひとりでこっそり英語の勉強に励む私にとって、ゴッホのこういった学ぶ姿勢は、とても大きな励ましになる。何かを始めるのに遅すぎる、ということはないし、学び方は1つじゃない。自分の思考力さえあれば、いつだって自由に学べることを実感させてくれる。
そしてもうひとつ、私は、ゴッホの愚直さが大好きだ。鳥の巣を描いた作品の横の説明書きに、「ゴッホは、鳥の巣を書けば売れるかもしれないと期待していた」とあって、ああこの人はやっぱりかわいいなあと思ってしまった。現代において、そういう期待がゴッホの中に存在していたことが判明している、ということは、ゴッホはテオへの手紙かなにかにそのことを書いたのだろう、「題材に工夫を凝らしたから、今回こそは売れる絵を描けたかもしれない。」などと。なんという素直さ。彼の1番の魅力は、こういったところだと私は勝手に思っている。ゴッホの愚直さに触れると、なぜか涙が出そうになる。恥ずかしいほどの愚直さに嫉妬さえ覚えてしまう。
ゴッホの人間性についての話は、この辺にして、ものすごく好きな作品がいくつかあったので、ここにメモしておく。
フィンセント・ファン・ゴッホ『青い花瓶にいけた花』
エドゥアール・マネ『白いシャクヤクとその他の花のある静物』
フィンセント・ファン・ゴッホ『ばらとシャクヤク』
アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデ『静物』
エミール・シュフネッケル『鉢と果物のある静物』
ポール・セザンヌ『ウルビノ壺のある静物』
フィンセント・ファン・ゴッホ『皿とタマネギのある静物』
ポール・ゴーギャン『ばらと彫刻のある静物』
エドゥアール・ヴュイヤール『アネモネ』
イサーク・イスラエルス『籠の中の花』
モーリス・ド・ヴラマンク『花瓶の花』
マルク・シャガール『花束』
友達が教えてくれた通り、花の作品がとても多かったのだが、今回は作品だけでなく説明書きや画集からも多くの興味深いことを学んだ。例えば、「花の静物画家」とジャンル分けされるような花ばかり描いた画家(モンティセリやジャナンなど)が存在していたこと、ゴッホがジャナンのことを「シャクヤク画家」としていて、ゴッホはそれの「ひまわり画家」版になろうとしていたことなど。
中でも特に面白いと思ったことは、高級な花などは画家間で貸し借りをしていたこと(切花だったら急いで描かなくちゃいけない!笑)や、花よりもその花を描いた絵の方が安い、ということが多々あり、高級な花が買えないからという理由でそれらを描いた画家の絵に需要があったということである。確かに、考えて見れば、花を描くなら、モデルとして画家の目の前に花がなくてはならない。しかし、さまざまな巨匠が描いてきた花はどれも、そこら辺に咲いているようなもの野草ではないことが多い。つまり、画家がモデルとなる花を買っていた、もしくは誰かのお庭に生えているお花などを模写して、それを作品に組み込んでいた、ということになる。
(ちなみに、当時安いとされていた花は、バラやすみれ、高級だったのはユリだったらしい。)
花の静物画は、現実の花と、それを絵画へ落とし込む、という一連の流れが、他の静物画とは少し異なるような気がしてとても面白いと思った。どうやってモデルとなる花を手に入れるか、描く花の種類はどうするか、どんな花と組み合わせて、どんな花瓶にいれるのか。花を描こうとする時、画家はほとんど花屋であるのかもしれない。そう考えると、とてもおもしろい。
説明書きにも指摘があったが、花の静物画の多くは、小さな花瓶に現実的には不可能な量の花が活けられていたり、季節的に一緒になることはないだろうという花が一緒に描かれていたりする。これは、顧客の需要に応えた、ということもあるだろうが、それ以外の作品については、花選びや花瓶のセンスは画家のセンスに直結していたのだということに気づき、ああおもしろいと思った。
そう考えると、やっぱりゴッホは、センスが抜群だなあと感じた。花合せ、花瓶の色や模様、ほぼ敏腕花屋のそれである。かっこいい。
そんな感じで、約1時間半、鑑賞を楽しんだ。久しぶりの美術館、とても楽しかった。そして、花の静物画について、特に画家の花合わせについて、専門的に学びたいという意欲が湧いた。
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