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「発生してくれてありがとう」【52年前より】

「真実の知識」という言葉を聞いたことはあるか。
残念ながらそんな言葉はないが、意味を説明しよう。

人は死に至る直前、生まれてから死ぬまでの記憶が駆け巡るという。
爆発的な集中力が、脳内の記憶野の隅々に電気信号を一瞬で行き渡らせ、経験したもの全てを追体験させる。
人の脳神経をすべてつなげると100万kmにも及ぶらしい。
光は秒速29万kmなので、もし一瞬にして思い出すとしたら、まさしく光を超えている。

人生の最後にもかかわらず、いわば生涯をもう一度繰り返すような出来事だ。体験したときと違いなにかを選択し、別な道を歩むことできないが、それはまるで録画を再生するように脳裏に現れる。
人生を反芻する刹那、あるいは不可思議なほどに長い追憶の最後には、まさに生涯を締め括る考えが浮かぶ。
それは生涯を通して得るにはあまりにも単純な、たったひとつの言葉で言い表せるのだという。

そのひとつの言葉こそ「真実の知識」だ。
生涯を通して語られるそれは、純粋にして重い。
本人の中でのみ確固となり、しかし永遠に誰にも知られることがなく、闇に消えていくもの。

私は、もう90を過ぎる歳になった。
はっきりとした年齢を覚えてはいないが、仕事をやめてから少なくとも10年は経っている。
最近めっきり食が細くなり、そんなに腹も空かないものだから、食事を準備をすることも億劫になってきた。
10年前まではまだ働きにも出て活動的だったはずなのに、なにかしらの強制力がなければ、生活はこんなに変わるものかと恐ろしい。
仕事をやめた当初は、画面の放つ光にほとほと疲れ果て、本物の自然に触れるよう散歩に出て新たな発見をしていたものだ。
そう思えたのもつかの間、すぐに大して変わり映えのしない同じ風景を、ずっと繰り返していているみたいで、退屈に思うようになった。
10年前までの仕事は心理的なストレスや肉体的な疲れがに満ちていた。常にそれから逃れられるおもしろいこと、楽しいことを渇望していた。
しかし、仕事のストレスも生活の中では刺激だったのだ。
長年、次々に刺激を求めて早足で進んでいくうち、もはやゆるりとした季節の移り変わりに歩調を合わせることが難しくなってしまったようだ。

今日も誰とも話さなかった。
何もしていないのに、疲れている。
きっと明日も何もない。
寝る前は最も怖ろしい時間だ。
暗い自分の部屋には、自分が積み上げたものが静かに横たわる。
ものというよりは、時間や、経験、記憶だ。
今日一日だけを思い返しても、自分という存在はまさにこの程度である、という事実が眼前に突きつけられているかのようだ。
小さいころからその不安を、寝る前の暗闇に見てきた。
そんなときは、いやな気持ちを忘れるために決まって楽しいことを思い出す。
本当にいろんなことがあった。

はじめの記憶は、赤ん坊のときだ。
大きくて毛むくじゃらの犬?たぬき?に、ほっぺをむにむにされていたような気がする。
乱暴だけど、不思議とやさしくてあったかかった。

七夕の日に、宇宙に連れて行ってもらったことあった。
いろんな星や星座を見たし、本当に鉄道が走っているのには驚いた。
探しに行ったものは見つからなかったけど、宇宙はとても大きいことを教えてもらった。

高校生のころ、部活で仲良しだった同級生が、ぼくの作品をとてもほめてくれていた。
その子は文化祭で、みんなから僕よりずっとほめられていてうれしくなったっけ。

スライムに閉じ込められたこともあったけど、不思議と、音が心地よかった。

マリオ3が8月に終わらなくて、33日までいったのは型破りでおかしかったなぁ。

コラボのお酒なんかもあったな。あのときの飲み会、本当におもしろかった。

企画協力をしていた脱出ゲームがあったから、はじめてだけど参加してみようって、新しいことをしてみようって思えた。
謎解きは難しくてできなかったけど、しゃがむとでびる様を間近で見れて最高だった。

ストゼロかき氷、スイカにウォッカを注いでまでお酒を飲むなんて、本当に無茶だったけど、ぼくらを最高に楽しませてくれた。

春には桜を見ながらお酒を飲んで、秋にはお月見。冷たい恋愛相談や悪魔の仕業、朝ごはん配信、歌配信、TRPG、麻雀、映画同時視聴、タイピング配信、ARKニュース、初めてのお使い、BL俳句、寮の組み分け、ケーキ見、言葉を失う配信、ゴールデンウィーク、すごろく大会、恵方巻、かきごおり、かぶぬしそうかい、はんばーぐ、でびりおん・なでる・うぃーんりょこう、らいねんのはなし、


あとは、あとは……あれ?
なんだっけ。
もう、思い出せない。
もっともっとたくさんあったはずなのに。



たすけて、でびるさま
もう、おわってしまう。



ぼくは、あわれでいられたかな。




「           」







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