Parallel Real Virtuality Ⅱ
Realな私は大学でメディア関連の授業を担当しているが、教職科目で担当するZ世代の学生達が教員となったら、α世代の子ども(児童・生徒)達に授業を行うことになることを示すため、ジェネレーション年表を授業スライドの1枚目に入れることにしている。
そのZ世代の学生に授業を行っている1958年生まれの私をこの年表に入れようとしたら、Y世代はおろか、1960年〜1979年頃生まれのX世代にも所属させてもらえない。年表を延長して、団塊の世代から始まる日本式の世代呼称を加えて、「新人類世代」という項目にやっとのことで入れてもらうことができた。
1958年は昭和33年にあたるが、学生にわかりやすい紹介の仕方をするとしたら、私は「となりのトトロ」に登場するメイちゃんとほぼ同い年のはずである。当時、私は長崎県の壱岐の島に住んでいて、まさに「となりのトトロ」に出てくる日本の典型的な田舎の風景の中で暮らしていた。実は、当時の壱岐の動画記録も隠し持っている。
私の父はカメラ好きだったようで、ダブル8(16mm幅のフィルムを往復で使う)規格の Sankyo 8-Zというゼンマイ動作の8mmカメラを持っていた。おかげで1960年頃から1970年頃までの家族の動画が残されている。
確か大学4年(1979年)のはずだが、押し入れに保管?していた8mmフィルムと映写機が限界となったので、大学からビデオカメラとレコーダーを借りてきて8mmフィルム最後の上映をビデオ化した。それから20年後の2000年頃、VHSテープが限界となる直前に8mmビデオ化し、その10年後の2010年頃にDVD化までたどりつき、奇跡的に壱岐の風景の中でヒョコヒョコ歩く自分の動画をつなぐことができた。この1960年頃の動画は、壱岐の共同洗濯場に私がヒョコヒョコと降りて行って水を飲んで帰るところで終わるのだが、他の動画には三輪軽トラック(おそらくミゼット)が田んぼの間の未舗装の道を砂埃をあげながら疾走するシーン等もあってまさにトトロの世界そのものである。
その頃父が使っていたスチールカメラはOLYMPUS PEN-F。ハーフサイズカメラで16枚撮りのフィルムを入れても32枚の写真を撮影することができるお得カメラでもあり、私が小さい頃の家族写真が比較的沢山撮影されていた。
2023年夏休み、まずadobe Photoshopの最新バージョンを使って色々と遊んでみた。昔からモノクロ写真をカラー化したり、イラストに変換するという機能は使えていたのだが、AIが進化した最新版は加工による無理やり感がなく、もともとカラーフィルムで撮影していたのではないかと思ってしまうほどの出来。
調子に乗って小さい頃の写真を何枚かカラー化してみたがなんだかな~という感じですぐに飽きてしまった。脳年齢=3歳頃という物理的特性によるものかモノクロ写真しかないという状況によるものかよくわからないがそういえば自分の原風景に「色」に関する記憶がない。何かが再現された時の感動を得るためには再現されるべきゴールともいえる「何か=ここでは正しい色」をあらかじめイメージしておく必要があるが、そもそもゴールがわからないので、どの写真の出力結果を見ても達成感がないのである。そのような意味で「1960年頃の壱岐の写真のカラー化版」の写真は、私にとっては虚構に彩られ生成されたパラレル世界の映像(写真とは言わない)としか言えないのかもしれない。
※生まれた時からカラー写真が標準のX世代以降の皆さんの原風景に色の情報があるか否かについてはいつか調べてみたいものだ・・・
※※ Y世代の同僚の先生に聞いてみたところ原風景に色の情報(記憶?)はあるそうだ。生まれた時の写真からカラー化されているので、色の概念ができた後に当時の写真を見て色の情報を確認できるのかもしれない。
a-1(aマイナス1)
以前から気になっていた画像生成AIも試してみた。大学の契約でアドビのアカウントを持っているので Fire Flyを使うことにした。最初のプロンプトは「1960年頃の壱岐の漁港」。このプロンプトだけで画像は出てくるのだが、"ぽくない"というか、かすりもしないどこかの国の風景写真。「壱岐の漁港」を「日本の田舎の小さな漁港」に変更してちょっとは近づいたような気もしたがイメージとは程遠い。
文書生成AIも同様だが、プロンプト(質問)がうまくはまるとこれは良いという出力が得られるがプロンプトがゴミだと出てくる出力もゴミでしかない。まさに、“Garbage In, Garbage Out”。生成AIを使いこなすためには有用な出力を得るための有効なプロンプトが必須である。
しばらく遊んでみたが、例によってすぐに飽きてしまい、終了しようと思ったら、左下に画像を読み込ませる機能があることに気づいた。そこで、「1960年頃の壱岐の写真のカラー化版」を読み込ませて、プロンプトを工夫してみるとイメージした出力に近づいた感じがした。この写真をベースに"1950年の日本の小さな漁港で伝馬船に乗る1歳の男の子"のプロンプトから出力した画像に水彩画加工を付加した画像が・・・・
である。う~ん、不自然に小奇麗な感じで、どこかのいいとこのお坊ちゃん風になってしまい、船の形もなんだか変。悪くはないけど、ここでお腹いっぱいという感じ。
おもしろかったのは顔変換。先述の詐欺師が出てきたベースの顔は私の60代の顔写真を使ってを生成したのだが、amazon photoのAIが同一人物だと判断した一番若い頃の学生証の顔写真をベースにして、別人物の顔を生成してみた。前回同様男性バージョンと女性バージョンが生成されたが・・・
う~ん、自分(A0)の別バージョン(a-1 : aマイナス1)とはいえ、ちょっと魅力的かもしれない。
後日、進化経済学者で同僚の古山先生と一緒に画像生成AIで遊んでみた。古山先生の現在の顔写真をFireflyに読み込ませ、自転車に乗るシーンの画像を生成してみたところ、同僚の二輪マイスター川岸先生の写真が出てきた。言語学者である川岸先生が「濡れ衣だ!!」と表現した真意の追及は別に行うとして、理論物理学のように黒板に数式を書いて事象を表現するイメージの小山先生からこのa-1( aマイナス1)の写真について以下のようなメールをいただいた
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AIが固有の時間軸「t」をつかって変化させた「自分の顔」は有力な選択肢になりそうです。
青年時代の「染岡慎一」の顔a0(学生証の写真)から実際の人類が共用する時間軸「T」の上をうごいて移動した顔をA0(現在の写真)だとします。A0は現在時における「染岡慎一」です。
しかし、aからAIが(同一人物であると)推定する顔はA1, A2, A3, ... と複数存在しますし、逆にA0からAIが染岡先生の青年時代のものとして時を遡って推定する顔はa1, a2, a3, ... と複数存在します。
ということは、「承認を与える周囲」という概念をウェブやAIにまで拡張すると、(an から推定される)自分の顔が架空の時間軸に沿って複数存在する(生成できる)ことになりはしないでしょうか。
人間にとって、共有できる時間軸はTただひとつだけなのですが、各人が妄想する空間は多数です。その妄想を共用時間軸T上でなんとか実現しようとして生み出したものが「ことば」「絵」などのシンボルであり・・・中略・・・。
AIが現在におけるオブジェクトを架空の固有時間軸上でたくさんのなにかへと形態変化させて生み出すものを「妥当なオブジェクトrelevant objects」と言うとすれば、「妥当なオブジェクト」は機能としては新しい地域通貨(世界的には妥当しないとしても、本人の周辺だけで通用するメディア)と同等の機能をもつ可能性があると思います。 古山友則/( )内は染岡が追加
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私の前に現れた a-1(aマイナス1)は、私の昔の顔写真a0をもとに生成されたが私が存在し生きてきた現実世界の時間軸上には存在しない。
リアルな私の時間軸はひとつしか存在しないが、A0オリジナルであっても過去の記憶をたどってみるだけでもかなりの部分が曖昧となってしまう。
生成されたパラレル世界の個々のエピソードは妄想というか生成するしかないようだ。はたてしてa-1(aマイナス1)はどのような人生を歩んでいるのかちょっと気になってきた。
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