ずれてるスナイパー【オリジナル】【小ネタ】

彼は狙撃手。いわゆる、スナイパーです。
彼はそこそこな腕前です。狙いはそこそこ外しません。その『そこそこ』加減は、ちょっとした筋金入りです。そこそこですから、大抵少し狙いがずれます。今日は敵の本陣に座る司令官の座るまさにその場所……から少しずれたとこに置かれた、花瓶を割りました。

狙撃自体は失敗しましたが
さぞ敵は肝を冷やしたことだろうと、とりあえず彼は誉められました。


明くる日、こちらは敵の司令官です。いつもおんなじところに座って笑っています。
割れた花瓶はそのままになっています。
そうこうしているうちに今日は後ろの水槽が粉々になりました。
飛び散った水を被りずぶ濡れになりながら、彼は笑っています。

回りの人間はわりと顔面蒼白です。
一人の人間がとうとう耐えきれなくなって、彼になぜ笑っているのか尋ねました。

だって愉快じゃないか。こんなに愉快な狙撃手が居るものかね。彼は核心が欲しくて堪らないのだ。堪らないのに、私がここに居ることが見えていない。それなのに私に拘って、距離だけは私に近いけれど、もっとも勝利からは遠い物を壊して回っている。私に直接手を下したいばかりに、私に何一つ痛手を与えることはできないのだ。考えてもみたまえ。この見事な『当て』の付け方を。この見事な頃合いのみはからいかたを。彼がもし狙撃手ではなく砲手で、狙いが私ではなく前線の兵隊であったなら。わが軍はすぐさま壊滅しているだろうに。

そう言って、笑っているのでした。

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