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【産婦人科専門医のQ&A】vol.1 妊活って具体的に何からどうはじめればいいの?

「いつか子どもを産みたい」と思っていても、じつは妊娠・出産についてよく知らない……そんな人は少なくありません。でも、いざというときのために、正しい知識はもっておきたいものです。

この連載では、読者からさまざまな疑問を募集。そして、子宮頸がん予防やフェムテックなど、エビデンスに基づいた情報発信に力を入れている産婦人科専門医・稲葉可奈子先生にお答えいただきます。

第一回は、妊活編その1。そろそろ妊活をはじめようかな……と思っている方々のQが集まりました!

回答者:稲葉 可奈子
産婦人科専門医・医学博士

京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得、双子含む四児の母。産婦人科診療の傍ら、病気の予防や性教育、女性のヘルスケアなど生きていく上で必要な知識や正確な医療情報とリテラシー、育児情報などを、SNS、メディア、企業研修などを通して効果的に発信することに努めている。
みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト 代表 / フジニュースα・Yahoo!・NewsPicks公式コメンテーター

■そもそも「妊活」って、具体的にどう進めていくんですか?

一般的な妊活は、排卵日に合わせてセックスをする「タイミング法」からスタートします。一年ほどタイミングを取っても妊娠しない場合は、クリニックを受診し、不妊の原因が隠れていないかを検査。

卵管や精子などに問題がないようなら、次は精子を採取して子宮の奥に注入する「人工授精」に進みます。それでも妊娠しないときには、卵子と精子を取り出し、受精させてから子宮に戻す「体外受精」にトライします。

タイミング法→人工授精→体外受精と、治療を先に進めていくことを「ステップアップ」と呼びます。どの治療法をどのようにチョイスするかは、もちろん個人の自由。これが基本的な「妊活」の流れといえるでしょう。

ただ、毎月きちんとタイミングを取れる人と取れない人では、同じ「3ヶ月間のタイミング法」でも、トライできている回数が異なります。なるべく急いで妊娠したい場合や40代以上の方は、長く待たずに受診するのもいいでしょう。

さまざまな検査をした結果、卵管の通りが悪かったり、精子がとても少なかったり……といった原因が見つかることもあります。その場合は、人工授精を飛ばしてすぐに体外受精となることも。もちろん、何らかの治療によって、不妊の原因を取り除ける場合もあります。

一般的な検査や不妊治療は、2022年に自由診療(全額負担)から保険適用(原則3割負担)となりました。女性の年齢や回数に制限はありますが、事実婚カップルも対象で、所得制限もなし。金額面で躊躇してしまい、治療が後ろ倒しになることでますます妊娠率が下がる……というケースは、残念ながらめずらしくありません。そうならないためにも、まずは遠慮なくクリニックに相談してみるのがよいと思います。

<体験談>
基礎体温計測とタイミング法を続けていたけれど、なかなか子どもを授かれずに受診。排卵がうまくいかない「多嚢胞卵巣症候群」であると診断され、子どもができにくい体質だったことを知りました。
そこで、排卵誘発剤の注射を受け、卵子の状態を見てもらいながらのタイミング法から不妊治療をスタート。並行して、黄体期を整える注射や子宮内膜を厚くして着床しやすくする薬を飲むなど、医療の力で身体のコンディションを整え、無事に妊娠に至りました。
その経験があったため、第二子のときは子どもがほしいと思ったタイミングですぐに治療をはじめ、いまでは二児の母です!
(最初の治療時28歳/フリーランス)

■1~2年以内には妊活をはじめる予定です。まず、何から手をつけるべき?

本格開始に先がけてぜひしておいてほしいことは「葉酸を摂取すること」「風疹のワクチンを打つこと」の2つです。

・葉酸を摂取する
葉酸は、そろそろ妊活を……と思いはじめたころから摂取をスタートしてください。胎児の脳や神経がつくられる時期に母体の葉酸が不足していると、赤ちゃんの先天異常の可能性が高くなるといわれています。ところが、その時期はかなり初期のタイミングなので、お母さん自身もまだ妊娠に気づいていないことがままあるもの。だからこそ、妊娠する前から葉酸を摂っておくことが大切なんです。

・風疹のワクチンを打つ
妊娠中に風疹に感染すると、赤ちゃんに先天異常(先天性風疹症候群)が生じるリスクがあります。ところが、風疹のワクチンは、妊娠中に接種することができません
平成2年4月2日以降に生まれた人は、公費で2回の風疹ワクチンを受ける機会がありました。ところが、昭和37年度から平成元年度に生まれた女性と、昭和54年度から平成元年度に生まれた男性は、受けていても1回。また、昭和54年4月1日以前に生まれた男性は、一度も接種の機会がなく、充分な免疫を持たない人が少なくありません。

妊活を考えはじめたタイミングで、パートナーと一緒にご自身の抗体価を調べ、必要なら早めにワクチンを接種するのがおすすめ。自治体から補助を受けられる場合もあります。

・基礎体温を記録する
それから、生理が不規則な場合は、基礎体温を記録してみるのもいいでしょう。毎月の生理がどのように来ているか、排卵日がいつごろなのか知るための参考になります。ただし、模範的なグラフにならない人もたくさんいるので、体温が安定しなくてもそこまで心配しなくて大丈夫です。

それから、妊娠を望む望まないにかかわらず、子宮頸がん検診は2年ごとに受けておいていただきたいです。そうしたことで日ごろから婦人科にかかっておくと、いざ妊活というときにも相談がしやすいと思います。

■低用量ピルなどの常用薬があります。妊活をするなら、いつまでにやめないといけないのでしょうか。薬を服用できないあいだ、持病とうまく付き合えるかも不安です。

持病で常用薬がある方は、まずかかりつけの病院で、妊娠を考えている旨を相談してみてください。主治医の先生が、ベストな持病との付き合い方について相談に乗ってくれると思います。

低用量ピルの場合は、妊活をはじめる3~4ヶ月前に服用をやめればOK。ピルを止めてから排卵が戻るまでの時間には個人差があり、数ヶ月かかってしまう方もいるためです。通常の生理が再開するだけで憂鬱な気持ちになるかもしれませんが、ピルを長らく飲んでいると、戻ってすぐの生理は軽くなる方が少なくありません。

また、とても生理が重くてつらい方は、できるだけ早く妊娠するために、人工授精や体外受精などを検討してみてもいいと思います。なかなか妊娠しないということは、そのぶんだけ通常の生理が続くということですから……。

ピルに限らず、ほかの常用薬をとめて苦しい方も同じです。しんどい場合は、頑張りすぎずにかかりつけ医に相談しましょう。なお、生理痛などがつらいときには、妊活中でも鎮痛剤を使って問題ありません。

<体験談>
私が持病のために飲んでいる薬は、妊娠中の服薬がNG。主治医のすすめで、どのように持病と付き合いながら妊娠していくかを相談できる「妊娠と薬外来」にかかりました。
服薬を止めるとどの時期にどんなリスクがあるのかを論文ベースで詳しく説明してもらったところ、最小限の休薬やほかの薬への切り替えといった選択肢も浮かびあがってきて、ひと安心。薬のベネフィットとリスクのバランスを聞いておくことで、自分に合った判断ができると感じます。
外来診療費は自費なので1万円くらいかかりましたが、きちんと話を聞いてもらえてよかったです。常用薬があって妊娠を悩んでいる方は、あきらめずに一度相談してみてください。(27歳・会社員)

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