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【シオリーヌ×つくし】「説明する努力/聞く努力」を怠らない、夫婦のコミュニケーション

子育てと向き合う「パートナーシップ」にスポットを当てる連載。パートナーとともに子育てをしている先輩たちは、どのようなコミュニケーションや仕組みづくりを心がけているのでしょうか?

第1回は、助産師兼性教育YouTuberのシオリーヌさん&つくしさんにお話を伺いました。

(取材+文:菅原さくら)

シオリーヌ(大貫詩織)
助産師/性教育YouTuber・株式会社Rine代表取締役
総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟にて勤務ののち、現在は学校での性教育に関する講演や性の知識を学べるイベント等の講師を務める。
YouTubeチャンネルでは、性の知識を気軽に学べる動画を配信中。

つくし/TSUKUSHI
シオリーヌさんのパートナー。
1997年生まれ、北海道室蘭市出身。看護師資格を有し、現在は医療系企業にも勤務。仕事柄、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)やパートナーシップに関心がある。


「してほしいことがある」のか「単なる愚痴」なのか

――まずは、お子さんが生まれる前のことを伺いたいです。お二人は妊娠・出産・育児などのライフプランに対して、何か話し合いや方向性のすり合わせなどをされていましたか?

シオリーヌ:私はつくしとお付き合いを始める28歳のころから、30歳あたりで子どもを授かりたいというプランを考えていたんです。その前提を知ってもらって交際を始めたため、そもそも簡単なすりあわせができている状態でした。

つくし:「パートナーとはいつもきちんと話し合いができる関係がいいね」という部分を共感したうえでお付き合いが始まったから、話し合う体制もしっかり整っていたよね。だから「子どもはどう考えている?」ではなく、具体的な妊活のアクションやスケジュールの相談からはじめることができました。

――助産師のシオリーヌさんと、看護師資格をお持ちのつくしさん。お仕事柄、出産前からいろんな情報や体験談をご存じだったと思います。妊娠への解像度が高いからこそ不安になったり、入念な準備をしたりしたことはありましたか?

シオリーヌ:基礎知識があるうえに、私は最悪のケースを想定するタイプなんですよね。だから「つわりがひどくて入院するかも」「切迫早産でそのまま出産まで病院の可能性もある」などと、いろんな想像をめぐらせました。でも幸いに経過は順調だったし、いろいろ想像できていたからこそ、予想以上にしんどいことってあんまりなかったように思います。もちろんしんどかったけれど、あくまで想定の範囲内、というか……。

つくし:確かに、しおりがしんどそうにしていても「これはよくあるつわりの症状だな」「28週だからこういう状態かな」などと理解はできるから、未知の恐怖はなかったですね。ただ、知識があるとはいえ、実際に出てくる不調やトラブルは人それぞれ。だから決めつけないようにはしていました。

シオリーヌ:私も「つわりはしんどい」って知識はあったのに、身をもって体感すると、こんなにコントロールできないものなんだって驚いたもんね……。それに、つわりでものが食べられないことのつらさって、生活のなかの楽しみが失われるつらさでもあるんですよ。ふつうなら「お腹がすいた」「あれが食べたい」と感じ、すぐにおいしく食べて満足できるはずなのに、そういう喜びがまったく得られない。それどころか常にうっすら気持ち悪くて、食に対する前向きな気持ちすら持てないという……。ただ、これって解決策はない問題だから、つくしからすれば聞くことしかできないんです。でも、彼は「そりゃしんどいよね、代わってあげられなくて申し訳ないよ」って、ただただ話を聞いてくれた。それにずいぶん助けられたなぁと思います。

つくし:しおりがそうやっていろんなことを話してくれたのがよかったんだよ。何がつらいのかっていう現状と、僕にしてほしいことをちゃんと言語化してくれてありがたかった。「りんごジュースは飲めそうだ」って教えてくれるから、僕はいろんなりんごジュースを買ってきて「飲めそうなものを飲んでね」って言えたわけだし。

シオリーヌ:みかんとポテチだけ食べられる状態のときには、在庫を切らさないようにしてくれてたしね(笑)。私は説明する努力を怠らなかったけれど、つくしは聞く努力を怠らずにいてくれたと思う。こちらからも「してほしいことがある」なのか「単なる愚痴で、受容と傾聴と共感を求めている」なのか、明確に表明して話すようにはしていました。

理解したつもりにならないで、ただ寄り添う

――知識があるからといって頭でっかちにならず、すりあわせや歩み寄りを大切にしていたことがとてもよく伝わってきます。妊娠中あるあるのケンカとか、お二人にはなさそうですが……?

つくし:ほとんどなかったよね。

シオリーヌ:妊娠中は「この人は妊婦だから」「ホルモンバランスがめちゃくちゃだから」っていう“ゆるされ”が発生してた気がする(笑)。

つくし:だって、そうでしょ(笑)。そもそも「二人の妊娠」というプロジェクトの負担を、しおりがほぼすべて請け負ってくれているわけですから。そこにしっかり感謝しつつ、「妊婦」というカテゴリに押し込めてしまわないように、一人の人間「しおり」として接するように気を付けていました。

――妊娠期間中、体調以外でつらかったことはありましたか?

シオリーヌ:妊娠前みたいに、いろんなことを満足にできない自分がつらかったです。助産師時代は妊婦さんに「お腹のなかで赤ちゃんを育てて、自分も生きているだけで充分すごいんだよ」なんて話してきたのに、自分がその状況になると結構つらくて……。ホルモンバランスが不安定だから落ち込みやすくなってるんだって頭ではわかっていても、「こんなになんにもできない自分はもうだめだ」って思うこともあった。いざ当事者になると「いまは頑張らなくていいよ」って言葉だけじゃ解決できないんですよね。いままでできていた“自分自身”への喪失感がありました。

――つくしさんは、そんなシオリーヌさんをどうサポートしたんでしょうか。

つくし:一番苦しんでいるのはしおりだし、自分にその気持ちを100%理解することはできないので、安易に「わかるよ」などとは言わないようにしていました。もちろん、彼女が話してくれることにはしっかり寄り添おうとはしながらも、自分がそれを理解しきることはできないってわきまえる、というか。

シオリーヌ:つくしのサポートでうれしかったのは、とにかく甘やかしてくれたことですね。その当時は本当に落ちてたから、お風呂に入ったりスキンケアしたりするのがめんどくさいというだけで泣いてたんです。そんな私を、つくしは咎めも無理に励ましもしない。落ち込んでる人がいると、いいことを言って元気にさせようとする……みたいなコミュニケーションってあるじゃないですか。でもつくしは、私を無理にポジティブにさせようとしないで、ただ寄り添ってくれたので、それがありがたかったですね。

立ち会い出産で、子育てのいいスタートが切れた

――お二人は立ち会い出産を選択されたんですよね。いかがでしたか?

シオリーヌ:「二人で産んだ」感が超ありました! YouTubeでもお産の動画をアップしてるんだけど、私がしてほしいと言ったことにつくしが一生懸命応えてくれて。とにかく「わかった!」「わかった!」って全力のアシストをしてくれてるのがよく伝わってきました。産んでいる最中にも産んだあとにも「頑張ってくれてありがとう」「二人の子を無事に産んでくれてありがとう」って感謝してくれたよね。ここから長く進んでいく子育てに対して、本当にいいスタートが切れたなって思っています。

つくし:あれだけの壮絶な様子を目の当たりにしたからこそ、産後のしおりにはきちんと休んでもらわなきゃと思ったし、その後の生活を回すために自分がちゃんと頑張らなくちゃってスイッチが入りましたね。しおりがよく言ってくれるけど、妊娠・出産を経て「バディ感」が増したと思います。僕らは家庭運営や子育てに一緒に向き合っていくパートナーなんだな、とあらためて感じました。

シオリーヌ:ただ、ちゃんとサポートしてくれない夫だった場合は幻滅しちゃうって話もよく聞くから……立ち会い出産がどの夫婦にとっても最高で必要なものだとは思わないです。というか前から「立ち会い」って言葉がよくないと思っていて。マンション引き渡しの立ち会いみたいに、ただそこにいて見守るだけみたいなニュアンスがあるじゃないですか。そうじゃなくて、きちんと出産に参画してもらわないと。

――でも、実際に産むわけじゃない以上、男性が出産に参画するのってなかなか難しい部分もありますよね……。

シオリーヌ:パートナーや病院側とのコミュニケーションも必要だし、男性の自主性だけの問題ではないんですよね。つくしは仕事柄、病院という場所に緊張しない、というだけでも大きなアドバンテージがあったと思います。

長期的な関係性のためにも、違和感は早めに解決したい

――よいスタートダッシュを切って、子育てに突入。家事育児に仕事と忙しい日々を送られていることと思います。ここまでを振り返って、お互いに協力して子育てしていくには、どんなコミュニケーションが必要だと感じていますか?

シオリーヌ:まず、お互いがちょっとピリッとしてるなって思ったら、どちらからともなく話し合いの時間をとるようにしています。「最近よく揉めますね……?」って(笑)。

つくし:そうだね。「あのときこう言っちゃったけど、本当はこうだったよね。ごめん」って謝罪ベースから話し合いが始まることが多い気がする。

シオリーヌ:やっぱり余裕がなかったりイラッとしたりしてしまう瞬間はあって、そのときどきでは、相手を責めるような言い方になっちゃったりするんですよね。でも、心の底ではそういうピリッとしたことを言いたくない気持ちはあるから、反省もしていて。私は、自分なりに「なんで私はあそこであんなことを言っちゃったんだろう」「本当は何をしてほしかったのかな」って考えて、その内省が終わったタイミングで話し合いを持ちかけてる。

つくし:話し合いの席につくことは、今後もずっと大事にしていきたいなって思ってますね。それができなくなると、やっぱり関係性が崩れていくから。

シオリーヌ:違和感をおぼえたら、早めに解決するのが大切だよね。子どもがいるとゆっくり話す時間をとるだけでも大変だし、できるだけ早く寝たいし、「我慢しておけばとりあえず今日は過ぎていく」って思っちゃうこともある。でも、今日の数時間休むために見逃したことって、数年後のパートナーシップに大きな影響を与えてしまう可能性があるんです。だから、手間がかかっても時間がかかっても、話し合うことを大事にしたい。それが、50代60代になったときにも仲良くいられるようなパートナーシップを保つコツなのかなって思っています。

つくし:あともうひとつ付け加えるなら、相手がやってくれていることにきちんと感謝をしていきたいな。しおりが大黒柱としてお仕事をしてくれてることにも、そのうえで育児や家事を一緒にやってくれてることにも、感謝してます!

シオリーヌ:つくしが「仕事が楽しいなんてすごい才能だよ!」って背中を押してくれること、私も感謝してる! 我が家は既存のジェンダーロールは置いておいて、自分たちが何をしたいのかを大事にしたいんですよね。だから私は仕事や大学院を頑張っているし、つくしはいまは家族の生活をよりよくすることに力を入れてくれています。これからもそれぞれの人生を尊重して、お互いの納得がいく役割分担を探りながら、うまくバランスとっていきたいですね。

ーーお互いの向き・不向きややりたいこと・やれることなどを踏まえて、タスクを分担しあう。そうした姿勢は、仕事でも家庭でも重要なのかもしれませんね。ありがとうございました!



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