『革命前夜』読んだ話

梅田のジュンク堂で見かけてなんとなく買った本にここまで時間と気持ちを奪われてしまうとは思わなかった。こういう経験があるから私は書店店員さんのおすすめ本やポップを信頼している。

『革命前夜』須賀しのぶ著

バブル期の日本を離れ、東ドイツに音楽留学したピアニストの眞山。個性溢れる才能たちの中、自分の音楽を求めてあがく眞山は、ある時、教会で啓示のようなバッハに出会う。演奏者は美貌のオルガン奏者。彼女は国家保安省(シュタージ)の監視対象だった……。(裏表紙より)

裏表紙には「歴史エンターテイメント」とあるが、それだけでは言い表せない小説だ。恋愛も才能に対する嫉妬も社会にたいする憤りもミステリー要素も詰まっていると思った。主人公がオルガン奏者に惹かれたり、才能ある留学生に引きずられたりしているのは本当に微笑ましい。ニヤニヤしながら読んでいたら、その次のページでいきなり社会情勢や自由への活動が描写されているので、私も頭をフル活動させて読まなければならなかった。

私は仕事の昼休みに少しずつ読み進める形で物語を追っていたのだが、本当に一気読みしなくてよかったと思っている。この人物がどんな思いで留学に来たのか、どんな背景があるのか、どう考えているのか、ひとつづつ自分の中で整理して飲みこむことができたからだ。

私は頭が良くないので、東ドイツや共産党や資本主義や……というような背景も「社会の授業で聞いたことある」くらいにしかわかっていなかった。なんとなく「東ドイツは共産党」「競争が無いから発展していない」「貧しい」「暗い」というようなイメージだけを持っていたし、この本のあらすじを読んだ時も、「そもそもなんでそんな国に留学に行くのか」と、ひっかかりを覚えた。

物語のいたるところに、主人公の眞山がなぜ留学先にこの国を選んだのかが語られている。留学中の生活や、街の雰囲気、その場の空気まで、自分もその場に立っているような気になるくらい細かく描写がされている。それは音楽についても同じで、恥ずかしながらこの物語で奏でられる音楽については全く聞いたことがなかったが、それでも音色の特徴や空気の揺れを激しく感じることができた。これ本当に音楽の知識がある人がうらやましい。

時間がある休日などに読み始めると、間違いなく没頭してしまうと思う。私はそうしてしまうと、話の上澄みだけをグワアアアと読んでしまう(というか、それくらい引きずり込まれる。本当に)ので、めっちゃ時間をかけることができてよかったと思う。とくに中盤からの「え、誰か裏切ってる……?え?襲われたの?なんで?誰が??」となる怒涛の展開からは、定期的に本から顔を上げないと物語に引っ張られてしまうので危なかった。休憩明けの午後の仕事にはあんまり身が入らなかった。

(最近、『蜜蜂と遠雷』(著:恩田陸)の映画を観たのもタイミングが良かった。こちらは原作を読めないまま、主演の松岡 茉優さんが好きすぎて映画館に飛び込んだのだが、ピアノいいな……クラシック全然詳しくなくても音に個性があるのがわかる……と感動した。)

いやもう本当に面白いしすごいから読んでほしい。読んでて聴覚まで奪われちゃったら本当に「どっぷり」物語に浸かれちゃうから。普段短編小説しか読まないけどここ二週間の隙間時間は全部この本に持っていかれてるんだから!!ね!!!

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