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プラグインの戯言(随筆)

 この文章は最近発売されたリバーブのプラグインを触っていて、思った事を書いた物である。

 まず私が今からここに記す内容は、主観的なもので自身の技量の拙さ、想像力の欠如を棚に上げた主張である。さして問題になる事もないだろうが気分を害するものであったなら、申し訳なく思う。

 さて私は常日頃よりプラグインの進化に注視してきた。ある年代を境に、音楽の進化は機材の発展に付随するようになった。この事に関して私的な見解はまた改めて詳しく纏めたいと思うので、今回は割愛する。現在の楽曲製作においてITB(In The Boxの略、PC内部で処理を行う事)が主流となっており、デジタルの分野における発展は目を見張るものがあり、常にアンテナは張って置く必要性を感じていた。無論個人の技術の向上こそが最重要の課題であり、道具によって鍛錬を否定するものではない。

 新製品の発表があれば、デモ版をインストールしてチェックを行ってきた。しかし音源類はとりわけデモが出来ない事も多い。Kontaktのライブラリーに至ってはある種の賭け事の様にさえ感じる。そう考えるとエフェクト系やソフトシンセはほぼほぼデモが可能であり、これは非常にありがたい事である。ただ大容量音源の場合はこの先もデモは難しいと思う。昨今のライブラリーは30GBくらいは平気であったりする。コンピューターの性能が向上しても、サーバーのコストは安くなるわけではない。このような現状でデモのためにサーバーの確保をする事はかなり難しいだろう。現にソフトシンセの類はデモが可能である事から、おそらくサーバーのコストが問題だと想像する。また現状のその為のコストを商品代金に乗せる事は得策ではない。

 というわけで現状はエフェクトに関してはデモ版を試し、音源に関してはソフトシンセはデモ版を試し、Kontaktのライブラリーはデモ動画や今までの経験を元に選定している。

 そんな私がここ数年で一番引き寄せられているのは、プラグインのReverbの進化である。リバーブは負荷が高い事が多かったが、マシンスペックの向上と新興のデベロッパーの登場により、劇的な変化が起きた。この音出せるのかと真剣に驚いた製品がいくつもあり、UADのLexicon 480LやLiquidSonicsの製品、EVENTIDEの2016にRare SignalのTransatlantic Plate Reverbはまさにその例と言えるだろう。

 勿論全ての新製品が手放しで称賛される事もなく、当然使い所に困るような物も存在する。ここでどこの製品がよく無かったと書く事は避けたいが、素晴らしいコンプやEQを作っている会社であっても、とりわけ空間系のエフェクトでは高い評価を得にくい傾向がある。もしかするとコンプやEQに比べ技術的に離れた分野なのかもしれない。というのもSlate Digitalは様々な製品をリリースしているが、Delayに関してはD16 Group、ReverbはLiquidsonicsに外注をしている状況にある。またiZotopeも以前は自社製のリバーブを発売していたが、現在はExponential Audioを買収している。ここで考えられる事は以下の2点である。Slate DigitalもiZotopeもアメリカの会社であり、アメリカのビジネス的思考により自社の既存の人員で作るより、外部から持ってくるべきと判断した。もう一つは実際に現状の製品としての他と競争出来るレベルのプログラムは書くことが出来ない場合である。つまり合理性を優先して書けるけど書かないのか、書ける事には書けるが既存の製品より見劣りするのか。いずれにせよ、この開発力のある2社がこのようなポジションを取る事は興味深い。

またフランスのArturiaはソフトシンセの分野において確固たる地位を有するが、近年はエフェクトの分野においても好評を得ている。2018年にフィルターとプリアンプを発表し、驚くべきペースでコンプ、リバーブ、ディレイと発表している。特にコンプを発表したあたりでArturiaのプラグインエフェクトに対する評価は確固たるものとなったと思う。

そんなArturiaもReverbを発売する前には、EMTの140をモデリングしたエフェクトを無償で配布した。ちょうどクリスマスの頃だった為、太っ腹なサービスだったのかもしれないが、市場の評価がどうなるか不安だったのではないかと推察している。というのもArturiaは3つの同種のエフェクトを同時に販売するが、その内訳は王道とマニアックと新しさ3つに分けられる。王道とはPreampのNeve 1073、コンプのUrei 1076のような名機である。マニアックはコンプのVCA-65やプリアンプのTridAのようなライン。そして新しさとは、プラグインで同機種をモデリングしている他社がいない製品を指す。この中で最もシビアな評価に晒されるのが、王道である。Neve1073やUrei 1176をモデリングしたプラグインは競合相手が多く、どうしても比較対比されやすい。そこにしっかりとした製品を出すArturiaのレベルの高さには感服するが、それをわざわざ無償配布したのは、これだけでは一抹の不安があったのではないだろうか。正直な所リバーブバンドルは魅力に欠けたラインナップであった。プレートとスプリングとシンセ的なリバーブというバンドルは魅力が薄いので、オールインバンドルを購入させる為に足掛かりとして、自信のあったEMTを配布したと考えられるが恐らくデジタルリバーブのモデリングが上手く出来ていれば、リバーブバンドルで売り出していただろう。

 ただモデリング元が名機や希少であればいいわけではない。あの名機をモデリングしましたと言えば、注意は引くことが出来るだろうが、音が駄目ならどうしょうもない。その点Arturiaは困るような物は作っていないので、今後のデジタルリバーブのモデリングにも積極的に挑んでほしいとユーザーとしても願っている。

 ここまで3つの会社の事例を見てきた訳だが、WavesとUniversal Audioは自社でリバーブを作っている。ただこの2社は若干特殊だと思っている。というのもUADはDSPはネイティブとは異なり、負荷の側面を考えるとフェアな比較ではない。
Wavesはこの世界で一番大きな存在であり、担う役割がどうしても違う。共通言語的な役割、そして古いプロジェクトファイルが開く事、音が変わらない事、これは新興のベンダーには与えられていない責任である。プロの世界で10年前のプロジェクトファイルが必要になった時、その当時のまま呼び出せる事は重要だ。新興の優秀なベンダーの登場で音や価格崩壊的なセールで揶揄される事もあるWavesだが、上記の理由を考えれば仕方ない。現にMcDSPやSonnoxは新しくなって音は向上したが、WavesはRシリーズのデザイン変更でも16bit時代の音は変えなかった。新しい物で比較すると悪くないが、最近の新興のベンダーのクオリティは素晴らしく、単体で見ると辛いのかもしれない。

 結局の所私はプラグインが好きで、期待していたメーカーの出すリバーブと相性がよく無かった事から考えを巡らせた。取り留めのない考えを巡らせながら、そのプラグインの使い道を考える。必ずしも音が良くないと言われるものが悪いとは断言しにくい。組み合わせによっては非常に有効な場面もあるかもしれない。我流とは自身を信じて己を疑い、積み上げるものだと思っている。コストパフォーマンスは悪くともその一歩に意味があるように生きていきたい。




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