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【139話】【ネタバレ】俺だけレベルアップな件【翻訳】


「ミスタークリス、あなたは近いうちに殺されるかもしれません」

セルナー夫人の口から出た衝撃的な言葉。
クリストファー・リードの表情が一瞬にして険しくなった。

「誰が誰に殺されるっていうんだ?」



コーヒーカップをソーサーにゆっくりと戻しながら、クリストファー・リードは落ち着きを取り戻した声で応える。

「セルナー夫人。あんたが俺に与えた恩は忘れていません。 けどな、俺たちはつまらない冗談を言う間柄でもないでしょう」

「先日、私はあなたに関する夢を見ました」
クリストファー・リードの圧に動じないセルナー夫人の横で、副局長は冷や汗を流して座っていることしかできない。

「なぁ、夫人…」

「夢の中であなたは、あなたを取り巻く男たちへ···」

「遠路はるばるこんな遠いところまでヘリで飛んできて、わざわざ夢の中話をしようって言うんですか!?」

クリストファー・リードが声を荒げた

「あんたが覚醒者になる前に、何を生業にしてたかは知っています。
夫人が覚醒後、他の覚醒者と区別される特別な力を持つようになった原因は、霊能力者だったからではないかって噂を耳にしたからです」

「俺は国家権力級ハンターです。 何人たりとも俺を殺すことはできませんよ」

クリストファーはそれ以上のセルナー夫人の言葉を聞く気がないと分かる、低い声を発した。

「夢では確か…」

目の前の国家権力級ハンターが怒りをあらわにしているというのに、動じる様子の一切ないセルナー夫人の態度に、クリストファーも呆れがちに応じる。

「夢ですか、夢ってのは都合がいいですね。
俺が夫人の言葉を信じるとしましょう。 で、俺は誰に助けを求めたらいいんですかね?
国家権力級の俺を守れる奴がいるってことですか。 結局できることなんて何もないじゃないですか!」

「もしかしたらあなたを助けることができる人がいるかもしれません。 水篠旬ハンター。 彼なら、あなたを守りきることも可能かもしれません」

「水篠旬?」

そんな会話が海の向こうでされているとは知らない旬は、ゲートから外に出てきた。



君主を殺さなければならない。
その選択は正しかった。
特殊な鎖に力が封印されているのにも関わらず、息詰まるほどの圧迫感があった。

もしやつが完全に解放され、自由にに外を闊歩できるようにでもなったら···。

「そうなる前にやつの本性を見抜くことができてよかった。」

(もっと強くならないと)


旬は君主から出てきた魔法石を見つめた。

巨人が全て倒されたというニュースは、瞬く間に世界中に知れ渡った。

SNSでは、「新しい国家権力級ハンターが現れたのではないか」と大騒ぎ。
架南島の時と違う点は、それを騒ぎ立てるのが日本人だけではないということだった。

海を渡って移動した一匹の巨人は、中国のリウ・ジーガンによって始末された。

日本ハンター協会長のゲオは自首した。
自分なりの責任を取ろうとしたのか、意図は分からなかった。

そして、地球の反対側、米東部メリーランド州、S級ゲートレイドを無事終えた米国ハンターたちは、政府が主催した祝宴を控えていた。

「S級レイドをクリアした記念パーティーだからか、政府の力の入れようもすごいな」

「 そうだな。レイド自体も思ったよりイージーだったしな」

「アンタらここにいたのか」



まるで壁のようにそびえ立つ男、トーマスアンドレが、ドレスコードを完全に無視したアロハシャツにサングラスという出立ちで、スーツの男たちの前に現れた。

「賭け事の内容は忘れてないよな?」

「君はヨット、君は自宅、そして君は… 何かけたっけ?」

「俺は何もかけてないですよ」

「ネクタイ、いいの着けてるね」

「俺は何も…」

「ネクタイ。」

「いや、だから…」


「俺のネクタイどう? 」

秘書のローラの前に現れたトーマスの太い首には、どこかで見たことのある赤いネクタイが巻かれている。

「高価なものとお見受けしますが、アロハシャツには似合いませんね」

「俺もそう思った」

トーマスはネクタイをその場に放り捨てた



「そんなことより問題が生じました。
今回の国際ギルドカンファレンスにハンター管理局が招待したギルドリストが出ましたが、そこに日本の我進ギルドが含まれていました。」

「我進ギルド?」

「はい、水篠ハンターが立ち上げたギルドです」

「そうか、彼がアメリカに来るのか」

トーマスは楽しそうにサングラスを持ち上げた。



「兄貴!本当にすごいですね、海を渡った1頭は残念ですが、これで戦力がさらに増しました!」

影の兵士に取り込んだ巨人たちを全員呼び出して並べてみると、流石に壮観だ。

「わあ···」

「いや、あれどうなって···? 」

「あれが水篠ハンターの能力か···?」

感嘆の声を漏らすDFNの軍人たち。
言葉は分からずとも、その驚いた表情を横目で見るだけで賢太は鼻高々だ。

(兄貴の能力を初めて目にして驚かない人なんていない)

「ハンター様?」

スマホを手にしたウィングが賢太に声を掛けた。

「あ、兄貴ならあそこに···。」

「いえ、諸菱ハンターへ…」

賢太は訝しみながらもスマホを受け取り耳に当てた。



「はい、お電話かわりました」

電話が終わった賢太が旬に声をかける。

「すみません、兄貴。僕は日本に帰国しないといけないみたいです」

「どうかしたのか?」

「僕もよく分かりません。 家に問題が起こったので一旦帰国するようにと言われ…」

「空港までお送りいたします」

「一足先に失礼します兄貴」


「ああ」

迎えにきたヘリコプターに乗った賢太の心は不安に揺れていた。

(母さんがあんなに動揺した声を出したことなんて今までなかったのに。
どうしたんだろう? いや、考えるのはよそう。考えすぎて、意外と 何でもないこともあるし)



成田空港

「坊ちゃん、車を待機しておきました。ひとまず私と一緒に来てください」

諸菱明成の秘書が空港で賢太を迎えた。

「こんな時だからこそ、気をしっかり持たなければなりません。 道中、すべて説明致します」

「どういうことですか…?」

秘書の言葉を聞いて賢太の不安は増すばかりだ。

「簡潔に申し上げますと··· 諸菱会長が、最終睡眠に入りました」

「父さん!」

「近づいてはいけません。」

賢太は分厚いガラスの向こうにいる父にむかって、届くはずのない声をかけた。
ガラス越しのその距離すらも、秘書に止められる。

「魔力をコントロールできないハンターの接近は、病気をさらに深刻化させるだけです。」

「そうですか···」

「僕は最後まで役に立たない息子ですね…」

無気力にポツリと呟いた賢太の目の前に、一冊の分厚いファイルが差し出された

「これは···」

「会長が倒れられる直前まで作業していらっしゃった物です。
目が覚めた時に、ご覧になるだろうと思って持っていたんですが、今は坊ちゃんにこそ必要なようです」

「僕は不出来な息子なのに、気に入った記事を見るとスクラップしておく癖は同じですね···」

「坊ちゃんのお姉さんとお兄さんの各種コンテスト、コンペ、コンクールまで···全部集めておられましたよ。最後の瞬間まで」

兄と姉の功績が目立つ分厚いスクラップブックの最後は、旬と共に日本へ旅立つ賢太の切り抜きが貼られていた。

「会長は君を愛していなかったわけではありません。 愛しているからこそ、坊ちゃんにかける期待も 大きかったんでしょうね」

賢太の頬を涙が伝う。



「ひとまず家に帰りましょう」

「はい…」

「え?」

賢太は気配を感じて背後を振り向いた

「坊っちゃん?」

しかし振り向いた先には病室があるだけで、賢太と秘書はその場を後にした。


人のいなくなった真っ暗な病室に、突如として姿を現した男がいた。

「アンタの息子が泣いてる姿は、聞いてるこっちの心が痛む」

賢太に忍ばせた影との影交換で病室に現れた旬は機械に繋がれて横たわる諸菱明成を見下ろした。
そして取り出した瓶の蓋を開けた。

「お嬢様、到着いたしました」

「ありがとうございます、運転手さん」

賢太の姉、諸菱美希が暗い顔で病院の自動ドアをくぐると、見覚えのある顔とすれ違って思わず振り返った。

「あれ?あの人って…」



その美希を病室で待っていたのは、意識をなくした父親ではなく、ベッドに腰掛けて驚いた顔で美希を見つめる父親だった。

「美希…?」

「パパ…!!」

美希の瞳から涙が溢れる。
明成は胸に飛び込んできた娘の頭を優しく撫でた。

「私が最後の睡眠状態から目覚めたってことか? 」

医者は興奮して叫んだ

「こんなことは初めてです!!最後の睡眠から目が覚めるとは!」

「マスコミが知ったらどんな反応をするか想像もできません!」


「ちょっと早いけど、 誕生日おめでとう、賢太」

病院を後にした旬が呟いた。

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