23.皇子、起つ

「この者たちが立会人です。王よ、譲位を。」

皇子は椅子に座ってうなだれた王に厳しい視線を投げかけた。

王は憔悴しきっていた。

「私の在世にこのようなことが起ころうとは。」

「この国難の時にあなたが動かないのがいけないのだ!」

取り巻きの将校も声を荒げた。

「皇子よ、これはなんの会議です?」

パトスは穏やかな声で皇子に問うた。

皇子はキッとパトスをにらみつけた。

「国を譲れと言っているのだ。」

「何をバカな、国はあなた方が鶴の一声でどうこうできるものではない。」

「なんだと!」

「国とは臣民あってよ。それが分からん者に、国家を統べる資格はない!」

パトスの一喝で皇子はひるんだ。

しかし、すぐに気をとりなおした。

「民も今の世がどうなっているかを知っている。」

「民の命を削って戦をすることが、ですかな?」

「戦を避ける方法などあるまい。」

「避けられませぬな。しかし、あなたのために命を捧げるものが

どれほどおりましょう?」

「なんだと!」

「あなたが未来を示さなければ、誰も戦いなど望みませぬ。

ただ目の前に危険があるからというなら、逃げるのも一手。

あたら無駄に戦などで死にたいとは誰も思わぬでしょうよ。」

「逃げてどうにかかるなど、誰も思ってはおらぬ!戦うしか未来はない。

それはこの国の民すべてが理解していることだ!だから私は立つのだ!」

「それだけのお覚悟がおありなら、まずは兵を集められよ。譲位など悠長

なことを言っている暇はありませぬぞ。」

「どういうことだ。」

どこからともなく忍び装束の者が現れ、パトスの横に跪いた。

「恐れながら申し上げる。早朝未明、敵方の軍勢約2万がアスタ砦にむけて

進軍を開始。今夜未明には包囲を完了し、明日朝には攻撃を開始予定。」

「アスタ砦も2万の兵に包囲されてはまず助かりますまい。さすれば次は

どうなるか?」

「何が言いたい?」

「この国の兵力を結集して敵の背後をつけば、我が軍と共に挟撃できる。

敵は数で勝ろうが、陣を崩された軍隊など赤子同然。一気に叩きのめせば、

2万の軍を失った魔王軍にとっては大きな痛手となりましょう。」

「今すぐに進軍しろというのか!」

「そうです。例えあなた一人でも、それでもあなたを死なせまいとついて

来るものがあるなら、それが忠臣であり精鋭というものでしょう。」

「なるほど、次の国造りの試金石にしろいうことだな。よし!わかった。

そなたの口車にまんまと乗せられてみよう!皆の者、今すぐ告知せよ!

進軍を開始する!」

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