24.皇子、強襲す

皇子が単騎で城を出たという知らせは瞬く間に国中を駆け抜けた。

将校をはじめ、歩兵、弓兵、補給隊が次々と追い付き、20キロの

地点で約1000の兵が集まっていた。

皇子は最初、勢いよく城を出たが、その足取りはゆっくりだった。

後から来る兵を待つためだった。

初めから皇子は、兵をけしかけるつもりだった。

国難に気を揉んでいた国民も、勇んで武器と鎧をもって参加した。

これらを部署、整理し、隊を分けて整然と行軍させた。

アスタ砦までは近道と下りで、ほぼ半日の行軍でたどり着くことが

できた。

パトスのもとには次々と斥候から戦況が届いた。

「すでに敵軍は交戦を開始しております。」

「歩兵2万、騎兵5千。攻城兵器5機で総攻撃をかけています。」

「歩兵1万を側面に移動させ、攻城兵器と歩兵により攻撃を集中

しております。防衛側の士気は高いとはいえ、砦の防御は1日

もつかどうか。」

パトスはこれらの情報を皇子に伝えた。

「皇子よ、聞いての通りだ。いかがなされる。」

「敵はこちらの20倍だが、側面に1万を割いているため10倍である。

さらに我々は背後から奇襲をかけるのだから、雑兵など構う必要はない。

主将の首1つ分捕るのに十分な兵力だ。」

そう言うと、ちょうど見晴らしのいい丘に出た。

遠くに土煙とともに、敵軍が大地を埋めているのが見えた。

砦に対して苛烈な投石器による攻撃が繰り返されていた。

歩兵も、砦に取り付いてよじ登ろうとしているのを、砦側の兵が

上から槍で払っていた。

「全隊に厳命ぜよ。これより音をたててはならぬ。補給隊はここで待機。

兵は荷を置き、武器のみ持て。弓兵隊は強弓を持たせよ。不要な矢は

持たせるな」

皇子の伝令はすぐに隊全体に伝わった。

千もの兵がいながら、ひっそりと、しかし、確実に歩速は上がっていた。

敵の後方部隊が我々の存在に気付いたときはもう遅かった。

騎兵隊があっという間に蹂躙し、敵の後方をえぐっていた。

敵が攻城戦のため、鶴翼の陣形をとっていたのがよかった。

防御が浅いため、あっという間に陣形が崩れた。

中心から崩れた陣形はそのまま勢いを削がれ、敵歩兵は潰走した。

側面に移動していた1万の歩兵が、砦への攻撃を中止し、こちらへ

進路を向けて進軍しだしたが、これに対して弓兵隊が間断無く攻撃を

開始した。

強弓の威力は絶大で、300m近い距離をほぼ水平に射抜き、敵兵の

正面を次々となぎ倒していった。

「敵将を探せ。敵将の首を捕るのだ!」

皇子の声がこだます。

敵の主将が見当たらない。

斥候からの情報をもとに真後ろを攻めたはずだったが、どこにもいない。

緒戦こそ、奇襲の効果もあり敵の気勢を削いで優勢を保ったが、20倍する

敵の数である。

徐々に立て直してきた。

一方、味方は疲労の色が隠せない。

中心を崩したことで、囲まれることなり、敵軍の包囲が厚くなってきた。

その時、砦の門が開き、一軍が側面部隊に攻撃を仕掛けた。

ロゴスの部隊だ。

倍する敵にファランクス部隊が強襲する。

恐ろしい強さで側面の敵歩兵部隊をなぎ倒し始めた。

側面部隊の1万をひきつけたとはいへ、残りの1万を千で相手に

しなければならない。

ロゴスのファランクス部隊など30名もいない。

皇子を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

まさに絶対絶命だ。

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