21.老いた王と若き皇子

エルパ王に追い立てられるように私たちは広間を出た。

「こちらの部屋でお休みください」

侍従官は私たちを客室に案内した。

私たちは荷物を置くと、「少し散歩をしてくる」と外に出た。

慌てて侍従官が追いかけてきたが、私たちのほうが足が速かった。

城を出て城壁を出ると、丘を少し下り、街にでる。

平坦な土地の少ない街並みは高低差が大きく、斜面に張り付くようにして

建物が立ち並んでいた。

賑わいのある街並みを私たちは肩を並べて歩いた。

「エルパ王は動きたくないのだな。」パトスが言う。

「兵がいないのだろう?」私が言うと、パトスは首を振った。

「老いたのだ。面倒に巻き込まれたくないのだ。」

「そんな、アスタ砦が落ちたらどんなことになるか、エルパ王も

分かっているんだろう?」

「分かってはいるさ。分かっていても動けない。動きたくない。

口は悪いが老いるということはそういうことだ。」

「これからどうするんだ?」

「飯を食ったらすぐに帰るさ。今は一人でも人手が欲しい。」

「そこの旅のかた、待ってくれ!」

後ろから声を掛けられ、私たちは振り返った。

若くて身なりのいい豹のような姿をした人物だった。

「これはこれはオニキス皇子。何用でいらっしゃいますか?」

「単刀直入に言う、私を戦場へ連れて行ってくれ!」

「王殿下は許しますまい。」

「アスタ砦が落ちればどうなるかは私とてよくわかっている。

兵の統帥権は王殿下にある故、兵は出せぬが、私と近衛兵のうち、

特に士気の高いものが道中を共にしてくれる。10名程度だが、

ないよりはましだろう。」

「たった10名では、大軍の前では芥子粒のようなものです。

あたら命を無駄にしたうえ、私どもは王殿下の恨みを買うことになる。」

「パトスよ、王殿下は年を取られた。この状況を理解していないのだ。」

「分かっておられるのなら、まずはあなたが王になられよ。私どもは

明日出発いたします。」

それだけ言い残すと、皇子が何か言いかけるのを待たずに歩き始めた。

私たちも後を追った。

「どういうことだ?」

「そのままさ、彼に王になれといったのだ。」

「でもどうやって?」

「王というのは象徴だ。誰もがこの人こそ王だ、と認めれば、王になる。

彼に、その自覚と自負を持てと言ったのだ。そうすればエルパ王がなんと

言おうと、兵は彼についてくる。」

「そうだろうか?エルパ王はこの国の兵の士気は低いと言っていた。」

「方便さ。若い兵士は士気は高い。見てみろ。」

そう言って指をさした方には、若者たちが集まっていた。

耳をそばだてると、「自警団を作ろう」とか「王様にかけあって、

今すぐアスタに兵を出そう」といった話をしていた。

「あとは皇子がどこまでできるかだ。彼が本物なら、勝機はある。」


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