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絶景温泉200#5【雲仙温泉・地獄のある風景】

新しくスタートした連載「絶景温泉200」。著書『絶景温泉100』(幻冬舎)で取り上げた温泉に加えて、さらに100の絶景温泉を順次紹介していこうという企画である。

第5回は、雲仙温泉の地獄のある風景(長崎県)

道路の視界が狭まるほどの水蒸気に、強烈な源泉の香り。温泉街に入ると、突如、車窓には「地獄」の風景が広がる。

温泉街に降り立つと、清涼感のある風が吹き抜ける。長崎県・島原半島にある雲仙温泉は、標高700mに位置するため、平地と比べて5℃気温が低く、明治・大正時代は外国人の避暑地として栄えた。

当時、上海・長崎間の航路が開けており、上海租界(外国人居留地)の欧米人などで賑わったといわれる。温泉街に西洋風のホテルや建物が立ち並ぶのも、その名残りだ。

「雲仙地獄」の遊歩道を散策。雲仙岳は今も活発な火山活動をしており、30にも及ぶ地獄地帯からモクモクと白い水蒸気が立ち上る。ボコッボコッと最高98℃の源泉が湧き出す。この地が昭和9年まで「温泉(うんぜん)」と表記されていたのもうなずける。

写真①D

まるで地球が呼吸をしているかのような光景は「絶景温泉」の名にふさわしい。温泉が天地の恵みであることをダイレクトに実感できる。

その半面、江戸時代はキリシタン殉教の舞台にもなった。信仰を棄てさせるための拷問と処刑が行われたという悲しい歴史をもつことも忘れてはいけない。

地獄めぐりの途中で温泉たまごを購入。地獄を眺めながらアツアツのたまごを食べていると、隣で猫が昼寝を始めた。1年中暖かい地獄は猫にとって天国なのだろう。すやすやと眠る姿を見ていたら、無性に温泉に入りたくなる。

写真④

ホテルや入浴施設の温泉は地獄から引いたもの。雲仙温泉は日本初の国立公園ということもあり、ボーリング(掘削)ができず、すべて自然湧出泉。そのため、天候や季節などによって日々、源泉の状態が異なるという。

無色透明の日もあれば、乳白色に濁る日もあるとのこと。温泉が天地の恵みであることを改めて実感できる。

温泉街には4つの共同浴場がある。もちろん、地獄の恵みである。「新湯共同浴場」「湯の里共同浴場」などは、基本的には組合員専用の入浴施設だが、200円で一般客にも開放してくれている。

写真②B

いずれも新しさや華やかさはないが、清掃や管理が行き届き、凜とした雰囲気をもった浴室である。わずかに緑色に濁った透明湯もパンチがきいている。

雲仙温泉を訪ねたら、温泉街から1キロほど離れたところにある雲仙小地獄温泉まで足を延ばしたい。江戸時代に開かれ、吉田松陰も湯治に訪れたという。

観光地化された雲仙温泉街とは打って変わって、周囲は鄙びた温泉情緒が今もなお残っている。「小地獄温泉館」は、1919年からある共同浴場だ。

写真⑥

内湯には、ミルク色をした目にも鮮やかな白濁の硫黄泉がかけ流しにされており、焦げたような硫化水素の匂いが浴室に充満している。九州では、これほど目の覚めるような白い色をした濁り湯は珍しい。体の芯からぽかぽかと温まる湯で、10分も浸かっているとたちまち汗だくになる。

週に1度通っているという常連のおじいさんと湯の中談義。「この温泉のいいところは・・・」。どこの温泉地でもよくあることだが、地元の人の温泉自慢がはじまるとなかなか止まらない。汗だくになりながら自分が毎日入る温泉の魅力を語る。そんな姿を見て、なおさら温泉が愛おしく感じられるのである。

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