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アニメ映画『トラペジウム』を見た。

アニメ映画『トラペジウム』を見た。

※ネタバレあり。もう見た人向け。

前置き

たかだか90分から120分ごときで1300円から2000円もするアニメ映画が基本的に苦手なんだけど(アニメを配信を見るだけなら月額500円で食べきれないほど見られるし)、この作品は公開される前からずっとずっと楽しみにしていた。
主題歌に星街すいせいが抜擢されたと知ったとき、すいちゃんの歌声は好きだから素直に嬉しかった。
この作品が乃木坂のメンバーの人が書いた作品だということは、公開されてネットで話題になるまで知らなかった。

仕事が忙しくて公開してすぐに見に行くことができなくて、自分が見に行く頃にはすっかり世間では話題作となっていて……正直少し足が重たかった。
それは自分がマイノリティ中毒者だからというのもあるけれど、この作品が「乃木坂の人が書いた作品」「万人ウケしない鬼作」「考察すべき崇高な作品」みたいなレッテル張りされて流行っていたからだと思う。
わざわざ強い言葉を多用した長文ツイートがネットに大量に投稿されてこの作品が自分を満たすために消費されている様を見て、キショいなと思った。何を見てるん?

映画を見に行った当日、劇場はかなり席が埋まっていた。
いつも座席を取るときはなるべく真ん中のちょっと後ろの辺りを選択するんだけど、この日はだいたい埋まっていたから隅っこの席を選択した。
友達と見に行くときは友達がよく隅っこの席を選択するから、隅っこの席に抵抗感はなかった。

それで、入場すると場内の治安は最悪だった。スクリーンに予告が流れている間ずっとフロアはがやがやした喋り声でうるさくて、まぁ制服姿の学生が席を埋め尽くしていたらそんなこともあるか……と思っていたら、本編が始まっても変わらずうるさいままで発狂した。
最近の学生って映画を静かに見ることすらできないんだ……と心底見下した。
特定のひと組がうるさいだけならそいつをぶん殴れば解決したんだけど、別にひと組だけじゃなくてもうそういうルールだというのが場内に形成されていて終わってた。
映画を静かに見るのはおっさん世代のルールなんだって常識を覆された。

この出来事をどうにかして前向きに受け止めるとするなら、この作品が自分が普段見てるアニメ映画とは客層が違う、アニメオタク以外にも受け入れられているんだ……と感心することだと思うんだけど、ただ乃木坂のオタクが集結してるだけで色んな世代の方にウケているわけではなかった。
いや、かずみんって誰だよ、なぁちゃんって誰だよ、そんなやつ画面にいねぇよ、アニメ見ろボケ。

感想①


そういうわけで、この作品のメインターゲットってオレじゃないんだ……と疎外感を覚えながらトラペジウムを見たわけだけれど、アニメは面白かった。
インターネット音楽すぎるOPから始まるも東ゆうが現実の息苦しさからもがくよくある主人公ではなくただのキチガイだということには5分もしないうちに気づけるようになっていたし、分かりやすい演出の数々からこの物語の結末が破滅だということも早々に予想ができた。
そのうえで人生の蛇足となった破滅の日々に意味を見出す物語として綺麗に成立していて、それって青春の醍醐味だよなと感動した。

青春群像劇と呼ぶにはちょっと東ゆう以外のキャラが舞台装置すぎるよな……と感じるほど生き方が誇張されたキャラばかりだったけれど、それも90分という限られた尺で物語を描かなければならないアニメ映画と相性が良かったように思った。
キチガイの東、普通の人間な西、特別な人間の南、バカまんこの北……それぞれ微妙に違う視点を持つ特別2人普通2人のとてもバランスのとれた配置だ。
人に合わせ続けた結果壊れてしまった西と色んな人と関わることで自分の道を見出した南がカップリングみたいな扱いになっているのは……ちょっとエグいなと思った。
偽善といえば〜で障がい者とボランティアが出てくるのはすごく分かりやすくて良かった。良かったのか……?

感想②


このアニメの1番面白いと感じた部分と1番面白くないと感じた部分は奇しくも同じ部分で、それは北がバカまんこであるという話だ。
北は西と同じく普通の人間サイドとして描かれているわけだけれど、普通の人間にアイドルの特別さは耐えられなかった西と違い北は普通の人間には特別になれないということを体現していた。
ぼくは東ゆうの描くアイドル像にはとても賛同できる側の人間なので北が彼氏バレした際に東ゆうが「黙れバカまんこ」って吐き捨てたシーンには思わず胸が躍った。
「大切な人ができたら分かるよ」じゃねぇよアイドルになったら処女膜が大切なことをまずお前が分かれよ、非処女のくせにアイドルとか……アイドル舐めんな。あ、インターネットリテラシーのない彼氏のちんこも舐めてるか(笑)。くらい思った。
たぶん原作の東ゆうさんはオレと同じセリフ言ってるよね。知らんけど。

ビッチに「黙れバカまんこ」と吐き捨てる名シーン


それで、Cパートでは2人目の子供がデキているんだから本当に一貫してた。
このオチはさすがにやりすぎてて思わず声が出るほど感動した。
北とかいうバカまんこはどこまでも普通の人間で、東の、アイドルの対極に位置する存在だったんだなと感動した。
でも、本当にこのバカまんこのことが嫌いだから物語の一貫性は欠けるけどバツイチでシンママやってるオチとかでも良かった。というかせめてネットリンチに耐えられなくて自傷するくらいの罰は与えられろよ。なんで普通の人間が耐えられてるんだよ。

このバカまんこの存在がアイドルを語る上で1番面白いなと思いつつ、でも1番面白くないなとも思ってる。
なぜって、東西南北の崩壊に別にこのスキャンダルは必要ではなかったことに思うから。
西が壊れるだけで東西南北は十分終わりを迎えていただろうし、唐突に追い討ちをするようにやってきたこのスキャンダル展開には本当に苛立ちを覚えた。
もっとも、「アイドルの失墜といえば、スキャンダルだよね」ということは皆が知る王道の展開だし、そして「スキャンダルは唐突にやってくる」というのも至極現実的で正しいので、この突飛な展開は突飛であることが美しいのだけれど。
だから、北のバカまんこ騒動が1番面白くて、1番面白くない。

感想③

アイドルの話といえば、そういえばこの作品ってアイドルが題材な作品なのにトップアイドルやカッコいい先輩アイドルはまったく出てこなくて、東ゆうの指す光るアイドル像というのがまったく具体的に定義付けされていなかったことに後から気づいた。
たぶんぼくたち視聴者が東ゆうに変に肩入れしないように、アイドルになりたくて東西南北になったわけじゃない西南北の3人の視点も理解してほしくて意図されたものだと思うのだけれど、かなり面白い仕掛けだなと思った。
さらに言及するなら、作者が個人の力量で戦うペンネームじゃなくて乃木坂のメンバーであることを大っぴらにして集客してることや、OPの歌唱担当の星街すいせいが本編に全然関係なくてただの客寄せパンダでしかないことも、アイドルを考えさせる皮肉になっていて面白い。
東ゆうさん、アイドルってそんなに素晴らしい仕事なのかな……。

総括

そういうわけで、自分がこの作品のこと好きなのか嫌いなのかよく分からない感じなのだけれど(スキャンダルが崩壊の一旦を担ってるのってアイドルの結末としては正しいけど、積み重ねてきた物語を崩す要素としてはやっぱり少しチープでダメだよな?せめてメガネくらい出番のある竿役が恋愛相手じゃないと物語に納得できないですよね?)、東ゆうさんの描くアイドル像はとても正しくて、やはりアイドルは、偶像は処女であるべきだよなと再認識する作品だった。
アニメに非処女のヒロインが出てくるたびに発狂しているオレと東ゆうさんって絶対親友になれると思う。友達になってください。

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