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運命の人


ばーのんちゃんの“ちゃん”は尊称である。
呼び捨てするほど距離感が近くないし、かと言ってさん付けは他人行儀だし、くん付けはもっと違うし、ということで“ちゃん”を付けている。

ばーのんちゃんの“ちゃん”は、スングァンちゃんの“ちゃん”とはだいぶ意味合いが違う。
スングァンちゃんの“ちゃん”は(こんなふうに言ったら怒られるけど)犬や猫やパンダや、どこからどう見ても可愛い生き物に脊髄反射で付けてしまう“ちゃん”だ。
ばーのんちゃんの“ちゃん”は、はたらきとしてはむしろ“様”に近い。
私は中高が浄土真宗の学校だったので、特に熱心に信仰しているわけではないが親鸞を呼ぶときは「親鸞聖人」だ。呼び捨ては絶対にできない。それと似たようなことだ。

加えてばーのんちゃんがひらがななのも、カタカナだと他人行儀で距離感を感じるからだ。他のメンバーは気にならないけど、ばーのんちゃんには今ここにある気持ちの距離感を的確に言い表さないと気が済まない。ばーのんちゃんがカタカナになるのは、基本的に、あまりに美しくかっこよくて親しみの要素が飛んでいった「バーノンさん」のときだ。

私はばーのんちゃんを「ボノニ」とは呼ばない。それは韓国に住むメンバーたちから見た「バーノン」の愛称であって、日本人の私が直接見るばーのんちゃんではないからだ。


「絶対自担にならないタイプだと思う」

それが「バーノン」の第一印象だった。

SEVENTEENを初めてきちんと見たのは2021年7月16日深夜のこと。
ジャニーズJr.のTravis Japanのライブ配信を見た帰りに、当時近所に住んでいた友達が「延長戦しよう」と、家でライブ映像を見せてくれた。その友達はすごくCARATというわけではなくむしろARMYだったのだが、Travis Japanと路線が似ているということでSEVENTEENが選ばれた。

当時のFFのジャニヲタに元ホシペンがいて、ホシの顔は知っていた。「小さいほうのホシくん」という感じでウジの顔も認識していた。FFにジョシュアをゆるく推している人もいて、ジョシュアの顔もわかった。セブチの集合写真をときどき目にして、「めっちゃ好きな顔」と思っていたので、ジョンハンの顔もよく覚えていた。
今も仲が良いミンギュペンの子のおかげで「ミンギュ」という名前は知っていた。Travis Japanのリーダー・宮近海斗に顔が似ているという話を聞いて、エスクプスもなんとなく認識していた(エクスプスだと思っていた)。光GENJIの山本淳一に似た顔の人もいるな〜と思っていた(ミンハオだった)。
それから、顔が四角い人がいるな〜とも思っていた。これがバーノンだった。

そう思い返すとすでにだいぶ覚えている。ライブ(Ode to youだったと思う)を見ながらめっちゃ歌が上手くて顔が細長いほう(ドギョム)と顔が丸いほう(スングァン)を覚え、「子どもの頃から顔変わってなさそう」「骨格が中丸くんみある」という印象でジュンを覚えた。
ウォヌとディノは最後まで見分けがつかなくて(これウォヌに言ったら喜びそう)、帰ってから頑張って覚えた。Travis Japanの松倉海斗に雰囲気が似てるほうがディノ、と覚えたので、最後に認識したのはウォヌだった。ウォヌはバラエティでも全然喋らないのでけっこう苦労した。

その夜はそこまでハマった覚えがないのだけれど、そのあと時期的にちょうど大学のテストが終わるタイミングで、時間を持て余して「何か面白いものが見たい」と思ったときに「そういえばなんか面白い人たちがいたな」と思い当たったのがSEVENTEENだった。ライブと一緒にちょっとだけバラエティコンテンツも見せてもらっていたのだ。
それから1週間後、私は1日4時間GOING SEVENTEENを見続ける生活をすることになる。

当時ギラギラ系のSixTONESを推していたので(今も好き)、ハマるならセブチよりBTSだと思っていた。そもそもジャニーズJr.もTravis Japanから入ってSixTONESにハマったクチだ。
でも今にして思えば、嵐じゃなくて関ジャニ∞、Travis JapanじゃなくてSixTONESという生粋の「しゃべりがおもろいグループ」好きの私がゴセにハマらないわけがなかった。
ゴセは衝撃だった。SixTONESのYouTubeでも当たり外れがあるのに、ゴセは外れがないのだ。全回神回。これが無料ってどういうこと。

そうしてあれよあれよという間にSEVENTEENの沼底へ落ちていく。どう見ても箱推し用のグループだけど、一応推しがいたほうが見やすいだろうと思って、最初はジョンハンに注目していた。顔だけでなく、時折見える地頭の良さと自己肯定感の低さ、何より学生時代に友達が一人しかいなかったというエピソードがかなり好きだった。

いろいろ見ていくうちに、「ミンハオめっちゃかっこいい」ということに気がつき始める。仕草や佇まいがいちいち痺れるかっこよさ。インスタに載せている写真や絵やファッションもめちゃめちゃかっこいい。そして何よりダンスがすごい。今まで見たことがある誰のダンスよりもすごい、好き。
それで私は最初のうち「ハオペン」を名乗っていた。

このときバーノンはというと、正直好きとか嫌いとかの範疇外にいた。あんまり喋らないし、何考えてるかわからない。「マイペースな平和主義者」……うわぁ、一生わからなさそう。ジャニーズではどちらかといえば、自己主張が強くて人間くさくて面倒くさいタイプばかり自担にしてきていた。何を考えているのか少しでもわからないと好きになれないのだ。あと、白人(あえてこの言い方をするけど)の顔立ちに特別惹かれたこともなかった。日本人の可愛い顔が好きだった。
「バーノンは絶対自担にならないタイプだと思う」
ライブ映像を見せてくれた友達に、後日ガストでそう断言したことをはっきりと覚えている。


夢のお告げ

最初の転機は8月24日だった。その日はジャニーズJr.のIMPACTorsというグループのライブだったのだが、朝、夢でバーノンを見て起きた。
目覚めて不思議な感覚のまま、YouTubeで「vernon」と検索して、デビュー前のミックステープ〈Lizzie Velasquez〉を知った。日本語訳動画を見ながら聴いて、愕然とした。彼はこんなふうに物事を受け取って、こんなふうに考えている人だったのか。何よりも、まだデビューすらしていない少年時代にこの歌詞を書いたということが衝撃だった。勝てない、と思った。

ライブは先述したミンギュペンの友達と一緒で、私は彼女に朝見た夢のことを話した。
全く気にもかけていない人が夢に出てくるはずがない。セブチのいろいろなコンテンツを見ているうちに、私は無意識にバーノンに惹かれていたのだろうと思う。それは顔が好きとか性格が好きとかパフォーマンスが好きとかいう言語化可能な理由ではなく、限りなく感覚的な部分で。言語化可能なら夢に見ずとも自覚できていたはずだ。
そういう意味で、夢のお告げって本当にあるんだと思う。

それですぐバーノンペンになるだなんていう軽率なオタクではない。しかし、バーノンが明確に「気になる存在」になったのは事実だ。
バーノンが何を感じ、何を考えているのか、以前より格段に推測がつくようになった(言葉にするとめちゃくちゃ危険な行為なのだけど、私の“好き”はこれを経ないと生まれない。要注意オタクである)。

夏休み期間で帰省したとき、親に「めっちゃダンスが上手い中国人が推し」と言いながら、私は事あるごとに「アメリカとのハーフの人」の話をしていた。「アメリカとのハーフで見た目は白人だけど、5歳で韓国に来たからアメリカのことは何も覚えていない人」と「アメリカで生まれ育った韓国系アメリカ人」が同じグループにいることの意義を滔々と語っていた。

次のわかりやすい節目は2 MINUS 1だ。もうその頃には相当バーノンが好きだったし、初めてリアルタイムで出る「バーノンが書いた歌詞」でもあったので、腹を括っていた。
1番Bメロの爆発するような歌声を聴いた瞬間、脳が溶けるのがわかった。英語を聴き取るのは得意じゃないけど、そのぶん声の感情がダイレクトに入ってきた。2番Aメロの語るような歌い方にも脳がドロドロになった。私は人の感情表現にとことん弱い。

あとで他人の和訳を参考にしながら歌詞を読んだ。ちょうどその時期、私はとても仲が良くて大切でこの先一生一緒にいるだろうと思っていた友人とすれ違って縁が切れたばかりで、2 MINUS 1にはまるでその話が語られているみたいで、バーノンもこういう思いをしたことがあるのかな、と思った。ジョシュアの聴き紛うような強い歌声にもびっくりだったけれど、正直私にはバーノンしか見えていなかった。ごめんシュア。

それからRock with youのバンドセッションver.も一つの節目だった。ミンギュペンの友達と、セブチではジュンペンで今はNCTにどっぷりの友達と3人で大阪旅行に行っているときに、動画が公開された。
ホテルの大きなテレビで動画を見た。カメラを見つめながら画面の向こうのファンのために歌ってくれているメンバーたちの中で、一人、目を閉じてスタンドマイクに食らいつき、まるで自分と音楽しかそこにないみたいに歌うバーノンに、私は惚れた。ホテルの枕を抱きしめて声にならない叫びを上げて、やべえ、落ちた、と思った。

もちろん2 MINUS 1のOpen Micも然りだ。ロックを浴びて無敵になるバーノンに私は恋をした。


10年目で初めての「推し」

「ハオペン、2推しはジョンハン」が「1推しハオ、2推しゆん、3推しバーノン(+特別枠スングァンちゃん)(可愛いから)」になり、いつの間にかゆんとバーノンの順位が逆転し、いつの間にか「ハオソルペン」になり、またいつの間にか「バーノンペン」になっていた。
私はでっかい階段をポーンポーンと下りるように、ばーのんちゃんに落ちた。

途中までは彼の生まれつきの愛嬌に引け目を感じていたけれど、いつの間にやらそんなのおかまいなしに「可愛い」と言うようになっていた。
多分この「可愛い」も“ちゃん”と似たようなものだ。犬とか猫とかそういう話ではなく、好きな人が幸せそうなのを見て私も幸せな気分になる、この心の動きを「可愛い」という言葉に置き換えているにすぎないのだと思う。

誰かの幸せを心底望んで喜んだことなんて初めてだった。前の記事(「君が思い出になる前に」)を読んでもらえるとわかるのだけれど、私はかなり不健康なオタクをしていた。私が不幸なんだからお前(自担)も不幸でいろ! ざっくり言うとそんな感じだった。

これほど高い純度で「好き」の感情を抱いたのは、関ジャニ∞の安田章大以来だった。でも安田担当時中学生の私、そのときは軽率な「可愛い!」を起点にファンになったので、状況はまた違う。こんなによく考えて、慎重に選び取って、それでも100%の純度で「好き」と言える人。こんな人に出会えるだなんて、思ってもみなかった。
10年アイドルオタクをしていて、初めて「推し」が何たるかを知った。

ばーのんちゃんの好きなところはいくらでも挙げられる。最初に好きだったのは深夜2時でも3時でもWeverseの通知が来るところで、一緒に夜更かししている感覚が大好きだったのだけど、最近夜更かしやめたのかな。それとも一人で夜更かししてるのかな。
あとはファンに「部屋片付けた?」と聞かれて「別の話をしよう」と無理なごまかし方をするところ。私も全く片付けてないから安心して別の話をしよう。
料理は全然できないけど、一食で炭水化物・タンパク質・ビタミンはちゃんととろうとするところ(IN THE SOOP参照)。私も当時は料理を全くしていなかったけれど栄養バランスには気を付けていたので、「食への解像度が同じ!」と思って嬉しくなった。
Weverseのユザネやアイコンの悪ふざけ。ツイッタラーみたいな投稿とリプのノリ。面白いと思ったことには100%の肯定を伝えるところ。ただの善人じゃないところ。でもとても誠実で、嘘を嫌うところ。自分自身の美学を貫いて生きているところ。ものすごくいっぱい、深く深く考えて、とてもシンプルな解を出すところ。思慮深いのに多くを語らないところ。でも好きなことを語り出したら止まらないところ。絶え間なく考えて誠実に生きているから、導き出す解はそのときどきで少しずつ変わり、人間らしく変化していって永遠に完成しないところ。だけど「考えるのをやめない」ということだけはずっと変わらないところ。
ばーのんちゃんの生き方は、私の憧れだ。

そしていくら好きなところを挙げても、それはほんの一部で、全然全部じゃない。言葉にできない、感覚的な「好き」がたくさんある。
ばーのんちゃんはスピッツの音楽だな、と思う。私にとってスピッツの音楽、草野マサムネの歌詞というのは、ちょっと聴いただけじゃ何言ってるのか全然わからない。でもなんとなく耳に心地いい。それで、本当にその言葉が必要になったときに、突然スッと意味がわかる。だからわからないときは無理してわかろうとしなくていい。「今はわからないけどなぜか信じていられる人/音楽」が存在するからこそ、私は生きることに絶望しないでいられるのだと思う。
そう、ばーのんちゃんのおかげで私は「生きてていいんだ」と思えた。なぜかはわからない。でも、これは今までの自担になかった感覚だった。

草野マサムネもばーのんちゃんも、穏やかな顔と声をして平気で変なことや残酷なことを言う(あるいは歌う)。そういうところもよく似ていると思う。私は清いだけの世界は苦手だ。うちの父親がブラックジョーク好きなので、似たのかもしれない。最近、ばーのんちゃんがうちの父親に似ているなと思うことがときどきある。


ばーのんちゃんに関しても、セブチ自体に関しても、他のメンバーに関しても書きたいことは山ほどあるけれど、「バーノンペン」の私としてのイントロデュースはこれくらいで十分だと思う。

あ、あともう一つ、ジャニヲタ10年選手が初めて韓国のアイドルを推すにあたって、ばーのんちゃんが「韓国人ともアメリカ人とも言い切れず、何人でもない」というのはかなり大きかったと思う。軽く推すならまだしも、「自担」となると人生レベルの重みが伴うので。
人を属性で見るのはよくないしじゃあその生まれじゃなかったら好きじゃなかったのかよとも思うけど、でもこの生まれだったからこそつくられた「バーノン」という人間がいるわけで。セブチにばーのんちゃんがいてくれて本当によかったし、ばーのんちゃんにとって居心地がよくて、ばーのんちゃんが誇りに思うグループだからこそ、私もSEVENTEENを好きになったんだろうなと思う。

他にもいろいろ書きたいことはあるので、いつになるかわからないけどまた更新します。それでは。

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