v4どんなに特別な瞬間だったかアジカン

ASIAN KUNG-FU GENERATION FUJI ROCK '19

なぜか、彼らはこのステージを"ツアーファイナル"だと言った。
それほどきっと、特別な想いでそのステージに立ったのだろう。

誰しも一度は比喩的な意味で夢の舞台に立ちたい!とか、物理的に人前でステージに立つという経験があるものだが、ずっと立ちたかったステージから見える景色はそれぞれ違って、そこに立った人にしかわからない。

しかし、ただはっきりとわかるのはこのバンドとリスナーにとって、ひとつの"到達点"であったということだ。

そう、今年9年ぶりにFUJI ROCKに出演した「ASIAN KUNG-FU GENERATION」の話!

ライブの速報であるということ、JPEG撮って出しで現像の時間がなかったなど、様々な理由があると察する。

しかし、公式のアーカイブ記事と写真が酷く怒りすら覚えるレベルだったので、勝手に、音楽ライターではない僕が代わりに、どのくらい特別なことか何を意味しているか、いちファンがどのような思いでライブを見たか記事を書こうと思う。あれを許可した上の人や撮影した人、レポートした人は本当に反省してほしい。あんな薄っぺらいテキストとスチルは許されないくらいもっと特別な瞬間だったんだ。次アジカンが出演したときには代わりにレポートさせてほしい。今そういう気持ちでいる。


さて、今年のFUJI ROCKは特別だった。

なにがそんなに"特別"なんだ?あぁ、フジロックね、よく聞くけど、アジカン?味付けカンパニー?興味ない。って人もちょっと待ってほしい。

僕はスケジュール的に会場に行けなかったんだけれど、涼しく冷房がキンキンに効いて、虫に刺されることもなく、汗をかくこともなく、なんだかアーティストにも失礼なような気がするほど快適に、スマホを片手に寝っ転がりながらライブ中継をYouTubeで見た。しかも無料で。ありえないことが現実になった。去年辺りからだっけ?5Gでのライブ放送。裏にはソフトバンクさんがいる。ありがてぇ。なんていい活用と宣伝なんだー。あの初心者には厳しくハードルの高い(と勝手に思い込んでいる憧れの)FUJI ROCKという夏フェスを、こんな簡単に見ることができていいのだろうか?もちろん、めちゃくちゃいい時代になったー、ありがたいなー、フェス飯食いてー、いつかは会場にいきたいなーって感じで見た。

なんたって、僕の一番好きでずっと応援してきたロックバンド「ASIAN KUNG-FU GENERATION」が9年ぶりにFUJI ROCKのステージに立ったのだ。アジカンについて詳しく知らない方のために、これまでの彼らの道のりを少し書こうと思う。

通称アジカンは、小さなライブハウスでの長い下積み時代を経て、これまでメンバーを一度も再編成することなく、爆発的ヒットとなったアルバム「ソルファ」というアルバムをリリースをした。この名を知らなくても収録曲、「リライト」「君の街まで」を知ってる!という人は多いはず。そして、2016年にはこのアルバムをセルフ再レコーディング。近年では「KANA-BOON」「yonige」をはじめとする次世代若手ロックバンドからもアツいリスペクトを受け、トリビュート・アルバムも2017年に発売された。ながーい、ながーい苦悩、紆余曲折を経て、バンド結成から約四半世紀、邦楽ロックシーンの"スタンダード"になった。「君という花」「リライト」など、特別ファンでなくても、歌える、フェスでは大合唱になる曲をもったロックバンドはそう多くないと思う。

しかし、そういった彼らの華々しい表姿とは対照的に、「ソルファ」がヒットしたことの反動として、アジカン自身が次の「アジカン」のあるべき姿、リスナーに対する違和感、ものすごい勢いで消費される感覚に悩み苦しんでいたという事実がある。ファーストフルアルバム「君繋ファイブエム」で歌ったような"君と繋がっていたい半径5mくらいの感覚"すら怪しくなっていたのだろう。

実際のファンクラブがないアジカンが、「ソルファ」の次のアルバムに「ファンクラブ」という名前をつけた意味をいま一度思い返してみたい。

暗号のような塞いだ 言葉揺らいだ想い 
 君に伝うかな 君に伝うかな 
君に伝うわけないよな

「暗号のワルツ」 /  アルバム『ファンクラブ』(2006)

 この「ファンクラブ」のアルバムに収録された1曲目の「暗号のワルツ」のこのフレーズは、リスナーには大きな驚きとショックを与えたと思う。

中村佑介が描いたアルバムジャケットやゴッチの当時の日記からも推測できるように、彼らはこのモノクロ世界の中で、実際のファンクラブなしに、このアルバムを聴いてほしい。また、いつか真の意味でリスナーに届くことを願った。

実際、2004年年末のボーカルGotchの日記にはこう示されている。

ファンクラブについて。ファンクラブの話は事務所スタッフと何度もしたことがありますが、我々の考えとして「必要ない」と思っています。我々は、皆さんにアジカンのファンである前にロック(音楽全般と同じ意味で)のファンでいて欲しいと思っています。あなたの大好きな音楽の一部でありたいと思います。(勿論、その中でも核にあたる部分に触れる音楽を作りたいとも思っています。)

また、Gotchの2016年の「私的、アジカンの5枚」というタイトルの日記では、以下のように述べている。

『ソルファ』の大ヒットからの様々な反響に惑わされずに、「10年後も誰かの心のなかで消えることのない灯火」のような作品を目指して、横浜の町の貸スタジオに籠ってセッションを重ねた作品。そういった作品に『ファンクラブ』と名付けて、中村君にモノクロのジャケットを依頼する俺の曲がった性根。けれども、アジカンがアジカンらしいサウンドを固めた一枚でもある。

このような想いが込められた「ファンクラブ」は、10年以上経った今でも一番好きなアルバム!と言われるくらいたくさんの人に届いた。

その後のライブを振り返っても、毎度ツアーのアリーナ公演を超満員にしたり、「ナノムゲンフェス」という海外アーティストと日本のアーティストの垣根を超えたフェスを企画したりしてとてもバンドとして成功しているようにも見える。

震災以降に発売した「ランドマーク」というアルバムでは、All rightと歌いながらも、一方で皮肉を交えながら非常に強いメッセージを届けた。他にも様々な方法で「もう一度立ち止まって未来について考えよう」というメッセージを積極的に発信した。

「ソルファ」以降のアジカンを見ると、ある時期までメンバー間の中は悪く、どこかやるせなさや使命感、必死さ、怒り、が楽しさを上回り、リスナーに届くよう願いながらも、どこか半分届きやしないよな、という葛藤ともどかしさを感じる。

実際ライブでは、淡々と、怒ったように歌っている、演奏している、などとリスナーから言われたこともあったようだ。

その後、いつしか邦楽ロックの"スタンダード"と呼ばれるまでになり、地球の裏側でライブをするほどになったアジカンであるが、この段階でも「スタンダード」でロックの"スタンダード"と呼ばれる存在であることを次のように歌った。

誰にも見向きもされないまま 後ろ指さえ差されなくても
やがて人々が忘れてしまっても 
風変わりのまま ただ歌ったんだ

「スタンダード」(2014)

このように歌い続けていたアジカンだったが9年もの間、フジロックのステージに立つことはなかった。

(もう一つの夏フェス、ロックインジャパンフェスでは一番大きなステージのヘッドライナーをつとめることが多かった。)

ネット界隈では、理由はよくわからないけれど、フジロック出禁。みたいな噂も流れた。この間、Gotchはソロバンドとしてフジロックに出演することはあったけれど、これに関してはGotchも、半分自虐的にインタビュー等で語っていた。もうフジロックではアジカンを見ることはできないんじゃないかと半分諦めていた自分もいる気がする。

そういった長い長いトンネルを抜けて、今回9年ぶりにフジロックのステージに帰ってきたのだ。

ボーカルのゴッチは今回のフジロック出演後、

と呟いた。
このことから、やっぱりバンドとしてもファンとして"特別"な瞬間だった。
ある意味ひとつのゴールというか、スタートだった。

愛嬌のない社会に生まれた犬みたいにさ 
「興味ない」みたいな言葉で 切り捨てないでね  all right 
-
嗚呼 いつか老いぼれてしまっても 
捨てずに 新しい扉を開こうか
はじまったばかり We've got nothing

「ボーイズ&ガールズ」/   アルバム「ホームタウン」(2018)より

20年以上続いているバンド、アジカンが9年ぶりのFUJI ROCKのステージで選んだ最後の1曲はこれだった。

「まだはじまったばかり We've got nothing」

彼らが届けるこれほど強いメッセージがほかにあるだろうか? 

ずっとファンでいてよかった。アジカンを好きでよかった。夢のステージで彼らがカッコよく今までに見たことないほど楽しそうに、自由に演奏している姿を見てものすごく嬉しかった。「おめでとう!」そう声をかけたくなる、そんな瞬間だった。

ライブ配信で歌われることはなかったんだけど、最新シングル「解放区」もまたバンドとリスナーの1つの到達点としてすごく味わい深い。

手垢まみれの貨幣と 足跡だけの地平
地名だけが古いままの新しい地図
解放区 フリーダム

「解放区」(2019)

そう、アジカン自身とリスナーはある種のコンプレックスから解放されるような感覚に今あるのだ。

彼らを追い続けてもいいし、違うなって思ったら聴かなくたっていい。「音楽はもっと自由であるべきなんだ。」というシンプルなメッセージがきこえてくる。

でも、最新アルバム「ホームタウン」はアジカン史上最高傑作だと思うからよかったらちょこっと聴いてみてほしい。アジカンファンのひとりとして、「ソルファ」時代で止まっている人やまだアジカンをよく知らない人など多くの人に聴いてもらい。届いてほしい。

彼らはいま最高にカッコいい!

そして彼ら自身がアジカンというバンド人生を、いま最高に楽しんでいるように見える。


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