【赤ちゃん返り】トラウマのときと兄弟ができたときとの違い、その対応

【質問】トラウマになる出来事にあった子どもの反応の一つに、著しい退行現象、幼児語の使用、赤ちゃんがえり、がありますが、下の子ども(弟や妹)が産まれた第一子の反応と酷似しているように思います。 下の子が産まれたら第一子にはどう接したら良いですか?

今回の記事は下記のラジオでも視聴できます。テキストを見ながらどうぞ☺

【お返事】この質問を2つに分けて考えてみます。

  • トラウマの退行と兄弟が生まれたときの退行は同じか?

  • 兄弟が生まれたときの甘える第一子への対応は?

結論は、トラウマの出来事を体験した子どもの赤ちゃん返りと、第二子が生まれたときの第一子の赤ちゃん返りは、まったく違うものです。これを順を追って解説していきましょう。

退行とは、先日お話した防衛機制の一つです。防衛機制については、先日配信したnoteを参照ください。
許容できない衝動を体験したとき、その衝動から自分を守るために退行することがあります。赤ちゃん返りとは幼児退行であり、次のような特徴があります。

  • 急に大きな声で怒鳴り、手が出る

  • 幼児のような幼稚な話し方になる

  • 閉じこもってひたすら眠る

※この記事は、Twitterの質問箱に来た質問を深掘りして回答したものです。

■トラウマ(PTSD)による退行

まずはトラウマ(PTSD)を負ったときの退行を考えてみます。
人はどうしてトラウマになるのでしょうか。それは倫理規範(大人になるまでに出来上がった「生き方」)が不条理な出来事によって破壊されたからです。意味不明の出来事によって、安全感に亀裂が入った状態です。そこには【恐怖】という感情が支配しています。3つのトラウマについて解説します。

◇1. 大人(成人)のトラウマ(PTSD)

倫理規範が出来上がるのは成人期ですので、大人はトラウマになり得ます。大人がトラウマを負ったときは、耐えきれず誰かに漏らすでしょう。言語化が可能です。この言語化がトラウマ解除には必要なのです。安全な場所(カウンセリングルーム)で、強制されることなく、そのトラウマを言語化していく。これによってトラウマを無力化することが可能になります。大人は話すことができるので、目に見える幼児退行はしませんが、「急に大声で怒鳴る」ことはあるかもしれません。これも幼児退行の一つですね。

◇2. 子どものトラウマ(PTSD)

子どもは言葉で十分に表現できないので、トラウマという許容できな衝撃が加わったとき、赤ちゃん返りをします。子どもは、まだ倫理規範ができあがっていないので破壊されるものはありませんが、衝撃を緩和するために、かつて体験した安全な世界へ戻ろうとします。一番の安全は【基本的信頼感】、つまり2歳頃へ戻ることです。

例えば、子どもが誘拐されたとします。彼の中にはこれまでに培ってきた基本的信頼感があります。これは2歳までに構築される、世界への、人間への信頼感です。理解不能な恐怖を体験したとき、自分でどうすることもできず、周囲の大人へ相談することもできません。相談することの意味も分からず、混乱の中で、相談してはいけないとさえ思います。
すると、彼は自分の精神を保つために、自分の中にある絶対的な安心感のある場所に戻ります。それが2歳という場所です。その場所で、世界は安全であることを再確認するのです。そこへ戻ることによって周囲の人の目には「退行している」と映るのです。

退行しているなら、そこに十分居させてあげることが大切です。自分を守るために退行しているのですから。そして親の対応としては、子どもと一緒にいてあげることです。【安心の場】としてそこに居ることです。(下記の「2歳問題」も参照ください)

◇3. 被虐児のトラウマ(PTSD)

虐待を受けて育った子どもは、2歳までの世界も安全ではありません。つまり基本的信頼感が育っていないので、そこへ退行することもありません。ただボーっと解離しているだけです。必要なのは、単一トラウマ(誘拐)の治療というよりも、被虐の治療です。長期に渡る、十分な安心感のシャワーが必要です。(下記の「2歳問題」も参照ください)

■兄弟ができたときの退行

下の子ができたことによる第一子の赤ちゃん返りは、母親を取られたことによる、自分の面倒をみろ!という自己主張です。甘えているわけですね?そこにはトラウマを負った子どものような「恐怖」感情は微塵もありません。【甘え】感情が支配的です。

◇甘える第一子への対応

このように、恐怖による安心の確認と甘えとは、行動は似ていても、心理的背景がまるっきり違うのですね。
ですから、質問者さんの質問「兄弟が生まれたときの甘える第一子への対応は?」に答えると、第一子に対しては、いままで通りでいいですよ。甘えてきたら、よしよしってやってれば、甘えが満たされればまた離れていくでしょう。いままで通りでやっていれば、甘えはすぐ収まるものです。次も有効的です。

  • ギュっと抱きしめる回数を少し増やす

  • 第二子は抱っこしているので、第一子をおんぶしてあげる。お母さんは立つとしんどいので、立たなくていいですよ。座ったままで、第一子をおんぶさせるように背中にもたれさせてあげる感じ。抱っこと言ってくると思いますが、原則的にはおんぶがいいでしょう。これが自律を促進させます。(まだ子どもですから、自立ではなく、自律です。)おんぶの効用は、神田橋條治先生の折り紙付きです。

■2歳問題について

2歳問題とは虐待事例のときに問題にされることで、基本的信頼感があるのかどうかということです。2歳までの間に、親あるいは養育者から【十分に受け止められた】体験があるかどうかということです。

この受け止められ体験があれば、トラウマによる問題行動(情緒不安定、学業不振など)を起こしていたとしても、周囲から愛情ある対応を受けることによって、やがては落ち着きを取り戻すことができます。

トラウマは、その危険信号によって児童の集中を阻害します。これによって発育が遅れる可能性がありますが、周囲の適切な対応により通常の精神発達を取り戻すことができるでしょう。

この受け止められ体験が2歳までになかった子どもの場合は、典型的な被虐児になり、回復も過酷になりますが、安心な場の提供と対応によって、時間はかかりますが安定的な成長に乗ることができるでしょう。焦らずにかかわって行きましょう☺

■まとめ

  • トラウマの退行と兄弟ができたときの赤ちゃん返りは全く違うもの。前者は恐怖による、後者は甘えによる。

  • 兄弟ができたときは第一子は甘えるものです。抱きしめる回数を増やすか、おんぶで乗り切りましょう☺ガマンして甘えてこないかもしれません。そのときは率先して甘やかしてあげましょう。学童期や思春期に、甘えられなかったという後遺症を残さないためにも。

  • 2歳までに受け止められた体験のある子どもは、その後、虐待体験をしたとしても、愛情ある対応によって自分の成長を取り戻していく。

⇒解決しない悩みのある方は、ソレア心理カウンセリングセンター へご相談ください。

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