見出し画像

北京ダックにシュガシュガー

夫は明日から仕事、娘は今日から保育園、ということで、娘を登園させてから久しぶりの夫婦水入らずのデートに出かけた。出産してからふたりで出かけるなんてできなかった。1年9か月ぶりのことで、なんとなく心がウキウキルンルンなのであった。

私の google map には、無数のピンが立ててある。特に東京都内はピンで画面が埋め尽くされるほどである。それは、星つきの高級レストランから、ワンコインで食べられる定食屋、文豪の愛したあの店、木製ビロードチェアが置かれたタバコ臭い喫茶店、場末のスナックなど、いつか行きたい憧れの飲食店につけられたピンである。仕事や用事で外出すると、その目的地近辺にあるピンのお店を訪ねるのが、外出時のなによりの楽しみである。仕事や用事より、そっちの方がメインだったりする。ちなみに私がつけたピンのことを「キヨピン」と呼んでいる。

話はそれたが、本日のランチはせっかくだから、ゆっくりコースなんか楽しもうぜ、ということで、キヨピンのついている店のひとつ「全聚徳 新宿店」を訪れた。こちらは北京に本店があり、北京ダックを振る舞う、世界的に有名なレストランチェーンなのだとか。一度だけ香港で食したことのある北京ダックだが、本場のはどんなものぞと気になってキヨピンしていた。

紹興酒でさらにウキウキ度合いが上がったところで、前菜、上海蟹&フカヒレスープ、魚の香味揚げと続き、真っ白なコックコートの料理人がこんがりと焼かれたアヒルとともに登場した。

「まずは一番やわらかい胸肉です。砂糖をかけてお召し上がりください」

サーブされたのは、グラニュー糖がたっぷりかかったパリパリの皮だった。砂糖ですか! と衝撃をうけながら一片を口に運ぶと、パリ、ジュワワワ。皮とその下の脂の部分のみをカットしたらしい一品だった。口の中にドワッとあふれる脂の量がすごい。そしてそこまでくどさを感じない脂と純度の高いグラニュー糖がなんとも仲よく手を取り、パリパリの合いの手でジュワジュワしてクルクルしてシュルシュル喉の奥に流れていく。インパクト大の、未体験の一皿でありました。おいしい、っていっていいのか正直分からないのだけど、たぶんおいしいです。

その後、クレープやパオに包まれた3種の北京ダックをスタッフが手際よく用意し、おいしくいただいた。皮も美味しいけれど、お肉部分もおいしかった。

まるまる一羽焼かれたアヒルだが、私たちのテーブルで使われたのはほんの一部。そのまま下げられたが、あのアヒルは一体どうなるのだろう。まさかそのまま捨てられたりしないよね? 最後にアヒルのスープの麺が出てきたけれど、まさかあのスープの出汁だけに使われたってことはないよね? というか、持って帰って、最後の最後までおいしくいただきたいんですが? だめですかね?

約1時間半滞在したが、おいしい時間はあっという間。もう一回頭に戻りたい。

さっき夫に、今日なにが一番印象的だった? ってきいたら、北京ダックに砂糖をかけたの、とのこと。何度か北京ダックは食べたことあるらしいが、この食べ方は初めてだったのだとか。

「そういえば昔、会社のみんなと北京ダック食べにいったとき、目の前でカットしてくれた料理人が自分の指を斬っちゃって、血まみれになって大変だったんだよね~」

っていう夫の話が、私のなかで、本日一番の衝撃でした。後になれば笑えるような、笑えないような……まあ、一生忘れんだろうな、その日のこと……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?