『刑事コロンボ もう一つの鍵』その他の、女性犯人像について

 突然だけれど、私は『刑事コロンボ』シリーズが大好きである。勿論、年齢的に(※昭和末期生まれ)リアルタイムで観ていた訳ではないので、リアルタイムで観ていた母親に勧められたりなんかして再放送で観た。同じような経緯でハマッたのはジェレミ・ブレットの『シャーロック・ホームズ』シリーズで、現代でそこまで熱中するドラマシリーズはないので(『相棒』好きだけどね)、私の感性はやはり古いのかも知れない。

 それはともかく、そういう経緯で、再放送がある度に再放送されたやつを見るという感じだったから順番が割とマチマチだったり、あれこれ言われる新シリーズにも特に違和感なく溶け込めてしまったりするのだが、やはりコロンボも古い作品だから、女性観が多少古かったりするとは思う。『死者の身代金』で、コロンボは恐らく敢えて言ったのだろうが、女の下で働くのは嫌ではないのかといった感じのセリフがあったり、『ホリスター将軍のコレクション』では、「女ってのはわからないな」と少しあきれたような言い回しをしたりする……のだが、不思議と腹は立たない。というのも、勿論時代の文脈というのがあるから、今同じように発言するのとは全然違うというのもあるのだが、まさにそれがリアルだからなのだと思う。むしろ、コロンボにそういうセリフを言わせたりしながらも、(ウーマン・リブとか色々あるんだろうけど)強く野心的な女性という犯人像が度々現れることもコロンボシリーズの醍醐味の一つではないかなと思う。

 さて、今回観たのは、まあ二度目なのだが、『もう一つの鍵』で、どこかのブログで邦題がいまいちだと書かれていた。なるほど確かに、そもそも犯人であるベスの殺人はこの「もう一つの鍵」によって予定が狂う訳なので、キーワードになってもおかしくはないのだが、作中での決定打はつまるところフラれたピーターの証言なので、インパクトに欠けるかも知れない。それに、"Lady in waiting"というタイトルのほうが、犯人の心理的背景に迫っている感じがするから、その意味ではあまり良い邦題とはいえない気がする。

 待っているレディーと訳して良いのかわからないが、兎も角、虎視眈々と自由を待ち望んでいたベスという女性。母親と鑑賞したが、母親はこの役柄が嫌いすぎて、犯人役のスーザン・クラークまで嫌いだという。確かに、鼻持ちならない女性だ。抑圧が解けたと思ったら、理解者である恋人もないがしろにするし、傲慢だし、強情だし、強欲だし、他者へのリスペクトなんてわりに合わないことが本当は嫌いなのだ。でも、私は彼女をそう嫌いになれない。『秒読みの殺人』のケイ程には好きではないが、彼女同様、男優位の社会で必死に自己主張をして、抗う女性の姿が見えるから。男たちは、あるいは、男の味方(結局、息子だけが可愛い母親とか)は、彼女たちの能力を最初から認める気もないし、試させる気もない。思い切りやらせてみよう、と思わないから、女のほうでも意地にならざるを得ない。その気持ちはとても理解できる。勿論、誰かを殺すことで権力を得ることは悪いことだが、正攻法では勝てないのだとしたら、どうだろう。男性が地位を得るために戦うにはちゃんとしたリングが用意されているのに、女性はそもそも登らせてもらえないという場合がある。今回も、ベスは、端から「あれができない、これができない、女なのに乱暴」などとあれこれレッテルを張られて、息が詰まっていた。彼女だって、自分の思うようにやって、自分を試してみる機会を与えられていれば、もう少し健全な精神が培われたのではないか。いや、勿論、殺人前提のドラマで、そもそも創作物で「もしも」を語るのは愚の骨頂なのだが、その位、ベスについて思わず色々と想像を巡らせてしまうのだ。

 もし、母や兄が、「いいよ、思うようにやってごらん」「好きな恰好をして、好きな相手と恋愛しなさい」と、彼女の意思を尊重していれば、彼女はある意味もっと健全な自信を持って、自由を手に入れた途端、火山が噴火するような勢いで権力の濫用を始めたりはしなかったのだろうとやはり思ってしまう。

 ところで、ベスのことが大嫌いな私の母は、やはり毒親に抑圧されて育ち、自信がつかなかったし、大人になってから、子供の時にあれこれ買ってもらえなかったという反動のせいで衝動買いと収集癖がついてしまった人間なのである。ちょっとした同族嫌悪なのだろうと思うとなんだか可哀想になった。が、これまで毎日のようにそういう母を慰め続けてきたので、私自身もやはり、そういう役目から降りたいと感じているのも事実だ。折角、あれこれの名作の中に鏡があるのだから、自らのコンプレックスとも正々堂々向き合ってもらいたいものである。そして、私に対しても無自覚に似たことをしていることにもぜひ気が付いて欲しい。私もできれば、爆発したくないので。

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