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Y Combinator 出資先の宇宙スタートアップ

こちらは衛星データを活用したデータ解析コンテスト「Solafune」を運営しているメンバーが、日々収集している宇宙に関連するニュースや情報を個人的に欲しい形でまとめて整理したものを記事化して外部に公開するという内容のnoteです。
先日、世界的に有名なベンチャーキャピタルである Y Combinator(YC)の新たな出資先として宇宙関連のスタートアップの記事が上がっていたので、これまでYCが出資してきた宇宙スタートアップについて、こちらの記事に簡単にまとめます。

1. Astranis(衛星ブロードバンドサービス)

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Image Credit: Astranis


Astranis社は低コストの小型通信衛星を開発し、インターネット接続を「衛星から地球上の最も離れた地点」まで届けるというスタートアップです。衛星の大きさは小型冷蔵庫ぐらいの大きさ (約350kg) で、従来の通信に使われていた衛星 (約6,350kg) よりもかなり小さくなっています。従来の通信衛星は2階建てバスぐらいあります。

多くの企業が地球低軌道上に多数の衛星を打ち上げる中(コンステレーションと言います)、Astranis社は衛星を静止軌道上に打ち上げることで、一つ打ち上げれば地球の裏側までネットワークにつながる衛星を開発しているということが競合優位性のようです。

超サイドバンドのソフトウェア無線技術により小型衛星の使用を可能にしています。この無線技術では、小型かつ複雑ではないハードウェアでより広域をカバーすることができ、数ヶ月で衛星をつくって打ち上げることができます。また、同社サイトには、そのアプローチによって競合の5倍早く開発が進むと記載がありました。
Andreessen Horowitzも以前のラウンドをリードしており、2020年2月にシリーズBで約9,000万ドル(約99億円)を調達しています。

先日のリリース(2021年5月)ではシリーズCで$250M(約272億円)を調達しています。同ラウンドはBlackRock社がリードし、Baillie Gifford、Fidelity、Koch Strategic Platformsなど多くの新規投資が参加しています。既存投資家のa16zとVenrockもフォローオン(追加出資)しており、ValuationはPost $1.4B(約1,523億円)と言われています。株式と借入による累計調達額は$350M(約381億円)超えとなりました。

 会社サイト→https://www.astranis.com/


2. Relativity Space(3Dプリンターを使ったロケット)

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Image Credit: Relativity Space


Relativity Space社は3Dプリント技術を使うことで打ち上げ用ロケットのコスト抑制と組み立ての高速化を図っているスタートアップです。2021年に初の打ち上げミッションを目指しています。

一連の機械や固定されたツール等を使用している製造組み立てラインから、巨大カスタム3Dプリンターへ変更したことで、ロケット製造プロセスを簡素化するという手法を用いています。同社はNASAとLockheedのミッションという、同社にとって初の政府との大きな契約を獲得しています。
2020年11月に約23億ドル(約2,400億円)のvaluationで約5億ドル(約520億円)を調達しシリーズDラウンドを完了しています。

会社サイト→https://www.relativityspace.com/


3. Momentus(衛星を別の軌道に移動させるサービス)

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Image Credit: Momentus

Momentus社は地球軌道上の人工衛星に取り付ける「宇宙船」を開発している会社です。宇宙船といっても、人工衛星を移動させるための補助機のようなイメージです。記事では "a fleet of spacecraft that would attach to satelllites in Earth orbit." と記載されています。水性のプラズマスラスターを使用して、それぞれの宇宙船は、静止軌道、月、深宇宙の目的地などの他の軌道に衛星を移動させることができるようになります。
将来的にはランデブーやドッキング、顧客のためにその他のサービスを実行する機能も搭載するようです。

具体的には開発中の"Vigoride"は国際宇宙ステーションの軌道上(高さ約400km)から200kmの軌道まで、最大250kgの質量を持つ衛星を移動させることができるようです。同社の宇宙船はライドシェアミッションとして打ち上げられるほか、国際宇宙ステーションからの打ち上げも可能らしいです。

また、"Vigoride Extended"という前述の"Vigoride"の上位モデルや"Ardoride"と呼ばれる1,800kgの質量がある大きな宇宙船も存在し、大きな衛星をより高い軌道に移動させる能力を持っています。さらに、新宇宙探査のために設計された"Fervoride"と呼ばれる宇宙船も発表しています。

その先には、小惑星採掘や月や火星への補給ミッションに使用される"Valoride"という宇宙船の計画もあります。
これまでPrima Movers LabやYCなどから約3,400万ドル(約35億円)の資金調達を実行しています。

会社サイト→https://momentus.space/


4. Albedo(高解像度光学画像と熱画像データ)

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Image Credit: Albedo

Albedo社は1ピクセルあたり10cmの解像度で地球の画像を提供する衛星コンステレーションを確立することを計画しているスタートアップです。
低空で大口径カメラを搭載した冷蔵庫サイズの衛星を飛行させることにより、分解能10cmの光学画像と分解能2mの熱画像を収集するためのコストを削減することを計画しています。

ちなみに、この解像度はトランプ前大統領がイランの発射台の、重度の損傷を受けた画像をツイートしたときに波紋を呼んだ時と同じ解像度です。当時、地理空間画像の専門家はおそらく10億ドル以上の費用がかかるNRO(アメリカ国家偵察局)の機密偵察衛星によって入手されたものではないかと示唆していました。(NRO衛星の価格と能力は機密扱い)

現在、米国では特別なライセンスがなければ10cmの解像度の画像を商業的に販売することはできませんが、Albedo社は2024年に人工衛星の打ち上げを開始し、2027年には24機の衛星で構成されるコンステレーションを確立するまでには、そのような法的な制限はほとんど受けることはないと想定しているようです。
Albedo社が軌道上に24機の衛星のコンステレーションを確立したら、同社は1日に2~3回更新できる画像を顧客に提供することを計画しています。
YCからプレシード資金を獲得したほか、気候技術投資ファンドからも支援を受けています。

会社サイト→https://www.albedo.space/


5. Alba Orbital (15分間隔で地球観測画像を提供)

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Image Credit: Alba Orbital

Alba Orbitalは「太陽電池で動く重量1kg以下の地球観測衛星を作る」ということに取り組んでいます。同社はすでに実証機を打ち上げており、実物を打ち上げる準備をしているところです。
同社の衛星の特徴は最低限の記憶装置と通信機能、発電機能、移動機能を備え、1kg以下であることです。それを実現した同社の「Unicorn-2」は本体がジュース缶ほどの大きさで、そこに本サイズの太陽光パネルの翼が取り付けられています。価格は1万ドル(約109万円)程度で、最大10mの解像度で撮影可能なため、建物や船、作物、飛行機などを見分けるには十分な解像度です。

同社はシードラウンドで340万ドル(約3億7,000万円)を調達している。今回のラウンドでは、Metaplanet Holdingsが主導し、YC、Liquid2、Soma、Uncommon Denominator、Zillionize、そして多数のエンジェル投資家が参加している。

本ラウンドで得た資金で、同社は製造規模を拡大して数百機の衛星を製造することを予定しており、これらの衛星が軌道に乗り始めれば同社が目標としている高頻度の画像取得を実証することができる。現時点では、まだ実現できていないものの、将来的に取得が可能になる画像を購入してくれる顧客をすでに確保しているそうです。

会社サイト→http://www.albaorbital.com/

まとめ

ロケット輸送、通信衛星、軌道上サービス、衛星データなど「宇宙産業」という枠の中でも異なるセグメントに出資しているなという印象を受けました。どの記事を読んでいても、低コスト化・高頻度・スピードというキーワードが出てきたように、開発や打ち上げの「低コスト化・高頻度化・スピードアップ」が宇宙産業が急成長する要因になっています。それについていくように法規制やNASAのプロジェクト等の政府マネーが民間を支援しており、米国の宇宙産業を後押ししています。

「開発・打ち上げのコストが下がり頻度が上がる→衛星が増える→通信・観測・軌道上サービスの市場が拡大する→インターネット利用者の増加・衛星データの活用・惑星探索や開拓の増加」
というように、YCのポートフォリオだけでも宇宙産業全体が民間事業として立ち上がる様子が伺えます。今後も、衛星データの利活用に特化した事業や惑星探査機事業、宇宙ロボットなど、また違ったセグメントの宇宙スタートアップがポートフォリオに仲間入りしていくのではないでしょうか。


参考

Astranis raises $90 million for its next-gen satallite broadband internet service
Relativity Space raising $500 million at $2 billion valuation from Tiger and others, sources say
Startup That Wants To Ferry Spacecraft Into Deep Space Raises $25.5m
Startup Albedo focuses on 10-centimeter Earth imagery
Alba Orbital's mission to image the Earth every 15 minutes brings in $3.4M seed round


Solafuneについて

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