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単語汚濁【短編】

急に意識があらわれて僕は思う、彼は随分と待たせるなあと。僕がこのような喫茶店をあまり好んでいないと知っておきながら。わざとじゃないにしろ、いじわるだなあと思った。

僕が入ってきたときよりも小さなドアベルが鳴り響いて、一回だけ瞬きをした。
「ごめんね、少し遅くなっちゃった」
彼は僕と同じテーブル席に腰掛けた。何か黒いものが胸裡を過った気がした。

「じゃあ、即刻、実験といこうじゃないか。」
彼は、noteとかいうアプリケーションで端くれのような物書きをしているらしい。無論、本職ではないので、娯楽の域を過ぎない。どうやら、僕を呼び出してまで執筆したい作品があるらしいが、迷惑も甚だしい。まあ、彼が僕を大きな声で拒絶できる人間に筆を進めるわけがないが。カギ括弧最低限度で話をしていた。

彼が言うには、この短編に使われる言葉が徐々に難解になっていくというもの。リポグラム作品に感銘を受け、思い立ったという、言わば実験的小説だ。ただ、加増のメソッドは一定ではなく、抛物線が如く改行が続く度に難解さの値は倍以上に膨張していくという。でも、そんな小説は面白いとは到底思えない。展開も何もかもが意味をなさないのでは、抑のコンセプトとして成り立っていないようにも感じられる。娯楽小説といえど、単なる諧謔ではなく、発想の消費活動だ。沈澱するのはさびしさだけであると察する。

僕はこの小説の登場人物の1人に過ぎず、論を俟たず談話は不可能だ。ただただ彼に服従しながら一刻々々の急流に耽るしかないのである。然し乍らこれは彼の作品である。最後は言葉だけではなく趣意も錯綜・破綻し、スラップスティックなものになるだろうとは、容易く思いつくことである。つばら、僕は駑駘のようにその窈窕を見つめるしかない。気づけば、語彙のランペイジが片鱗として僕の手に握られていた。

この時刻の喫茶店は些かの囂しさだ。後方の席の勤労者が電話越しに阿諛追従する様が耳に入ってくる。彼の後方は手弱女だ。羨望感。
「ただ、文章を綻ばせていくのみではエピゴーネンの域を出ないだろうがね。おっと、その憮然たる面持ちは予想した通りといったところかい。まあ、乃公の作品だからね。」片鱗を堅く握りすぎていた手底から赤液が滴った。

僕は怨ずるように虚礼を弄する勤労者に狐疑の目を見せた。のべつ幕なしに阿つづけていた魯鈍な奴は、眉間に蟠踞の皺を顕にした。僕は奴に情実入学に対する批判を述べた。脈絡はなかったが、それは韜晦よりも咋な拒絶の意思表示だった。刹那、自身の意図を慮れずにいた。ひどい眩暈だ。そのまま水平二連銃で仕留めた。

とはいえ、店内はこけおどし。いわば、通り一遍である。故、ケスラーシンドロームが如く空気密度が臨界点に達していた。思わず起居した。手弱女は急な浮腫に陥りながらも、龐統によく似た鳳雛を奉崇している。突如巻き起こる花粉光環から逃れようと、クー・クラックス・クランが店内に流れ込んで来た。玄冬のような肌の翁を抹殺した。ケニア人ではなかった。彼は其れを俯瞰していた。とんだシングルイシューである。序に、木仏金仏石仏な店員が荼毘に付されていた。聞く話によると、顔のパーツが勇魚に変貌したらしい。纜を解いた訳である。

諒察せず一家言のみを耳朶に触れてきた。金離れは悪列で、ハンロンの剃刀と胆力を練れば、一言居士がヴィンテージに嵌る。栴檀は双葉より芳しとはよく言ったもので、エレファント・イン・ザ・ルームは実に姦しき僥倖だ。廉、エンパシーはグレービーボートの要領で明哲である。僕は咄嗟に、公娼に讒訴してみた。ともすれば、嗜眠は希釈した。貸し剥がしのフォーリーサウンドは沖融の極みである。

亡父!著くちんちんもがもがしても蟻走感のパイオニア。エクステリアに虜囚か。ポルカドットスティングレイの旧聞を装丁しながらベネフィットを円座型にコンセントレーション。宜なるかな、幽玄なトランジスタグラマーだな!この女犯!痴愚!白痴!傲岸!蓮葉!荒寥な交接に心より感謝申し上げます。隙間の神を敷衍してやる!冪統制を褫奪した書肆。僕は異常誕生譚です。これはルポタージュか。ぶっ倒れた魚目燕石ニガーの脈絡叢は神以て滋味。媚態を鑑みると龍蟠虎踞。テールリスクを開披。跳梁跋扈〜。
「見目形か。フィルターバブル。だめだ。説例が滂沱している。まるでサラダボウルの余殃だ!風馬牛だがすぐる日、天皇を轢殺した。」

遂には病臥した。プロミネンスと寂寞がそこかしこに流離っては寂しさに溢れた。

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