岡嶋二人「タイトルマッチ」

岡嶋二人作品を全部読むシリーズ。密かに実施している好きな作家の作品を全部読む、という読書。現時点で3名の方で実施中である。「連城三紀彦」「今邑彩」「岡嶋二人」の3名。共通している点は既に存命ではなく(岡嶋さんは除く)新刊が出ないということ。ファンとしては非常に残念なのだが、増えないためゆっくりのペースでもいずれか全部制覇出来るのが良い。

さて、今回の岡嶋二人さんだが、他の2名とは毛色が異なる。というのも著者の岡嶋さんは「徳山諄一」と「井上泉」両名によるコンビ作家なのである。コンビは解散してしまったために作品は増えないということだ。

そんな珍しいコンビのお二人の作品から初期の「タイトルマッチ」を読む。こんな内容。元世界チャンプの子供が誘拐された(生後10カ月)犯人は身代金の要求などはせず、ただ1点を求めた。それは「次回の世界タイトル戦でノックアウト勝ちをしろ。出来なければ子供の命はない」というものだった。主人公の最上は引退していたため、そのタイトルマッチは後輩で義理の弟にあたる琴川に託されることになる。世界戦まで後2日。果たして息子は無事に帰ってくるのか・・・

ここまでの内容が冒頭数ページで書かれる。タイトル戦まで後2日だ。個人的に岡嶋二人さんの最大の特徴は考え抜かれたプロットだと思う。あらすじを読んで面白そうかな、と手にとって読み始めるともう止まらない。いや止めどころが無いのだ。今作にしてもしかり。開始早々、誘拐事件が発生し、一気にトップスピードへ駆け上がる。余計な助走は一切ない。それであって380ページほど読ませるのだから凄いとしか言いようがない。またこの作品の面白い点として、その風変わりな要求にある。タイトル戦などで考えられる要求では八百長をして負けろ、というものはあると思う。しかし逆に勝て、しかもノックアウト勝ち、である。これは負けることより難しい。しかも相手側に犯人がいるかもしれない(普通に考えたら無いが)ため協力を仰ぐことも出来ず、最上たちは息子を助け出す方法を考えるのではなく、どうすれば相手(しかもこの相手が最上を破って世界チャンプとなった外国人)を倒せるのか?に終始する展開が非常にトリッキーだ。「人さらいの岡嶋」という異名が付くほど誘拐ものを得意とした彼らのテクニックが存分に発揮されているといっていいだろう。もう1点、見逃せないのが警察の動きである。作中、何人かの警官が登場するのだが、彼らは名前さえ与えてもらえていない、モブキャラのような存在だ。しかしそんな彼らは優秀なのである。だから、捜査パートではじわりじわりではあるが、確実に犯人に迫っていく。通常、誘拐ものでは警察が上手く機能していないパターンが多い。しかし、岡嶋作品では有能な警官が度々登場する。作中で「日本の警察は世界で一番優秀」という言葉が出てくるのだが、まさにそれを体現している。

長々と書いたがミステリー的に読むと気になる点も出てくる。容疑者がどんどん少なくなってくるところに「ある事件」が発生することで、さらに狭まるシーンがある。正直、あの事件は不必要だったように思える。だからミステリーで読むと肩透かしを食らうかも。2時間もののサスペンス、みたいな頭で読むとエンタメとして非常に楽しめるのではないだろうか。

やはり岡嶋二人は好みだ。いつか全部読み終えた暁には全作解説を書いてみたいなぁ。その前に全作揃えないと。





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