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荻原浩「噂」

仕事とプライベートとバタバタしているが読書は何とか順調に出来ている。というか読書以外していないのだが。とうことで荻原浩さんの「噂」を読む。直木賞作家でもある荻原さん。守備範囲が広く優しく笑えるものからブラックでハードな物まで書き分けられる、荻原さんだが、今作まで未読であった。初荻原さんとなった作品の「噂」はブラック荻原の代表作。噂が現実となるサイコサスペンスである。

こんな話。ある化粧品のキャンペーンとして女社長が生み出した方法。渋谷の女子高生たちに口コミでその化粧品(ミリエル)の噂をたてさせるというものだった。その噂の一つに都市伝説まがいのものがあった。「レインマン」という殺人鬼が女子高生を狙っている。ミリエルの香水を付けていれば狙われないというもの。単なる噂話だったのだが、後日本当にレインマンを模倣したかのような事件が発生する、というもの。

面白い。流石は荻原さん。直木賞を受賞した作品などは優しくユーモアにあふれる作品なので、そちら寄りの方かと思ったが、いやいやブラックなもの実に上手く書くなあという印象。目線として2人の人物が登場する。レインマンの噂の当事者となった「西崎」視点と、レインマンの事件を捜査する刑事「小暮」の視点だ。目線が変わることによって物語の形が変化するのが面白い。噂の元手をしっている西崎は「何故、噂が本当になったのか?」というホラーの要素がある。刑事の小暮目線では被害者の繋がりが見えないミッシングリンクもののミステリーとして読める。読者は答えを知っているので、いつ「レインマン」にたどり着くのか、モヤモヤするので読むペースが落ちないのだ。事件の骨格が分かり始めてからは容疑者も絞られ、フーダニットへ移行する。犯人の狂気的な動機もあって、まさにサイコサスペンスというジャンルがピッタリとくる。読み終えた感想として、よくあるプロットながら当時の世相を意識した構造で、流石だなあというところ。ザラッとした読み心地も味わえて、予想はしていたが満足。この人は個人的にブラックの方向を追いかけていきたい。

一つだけ苦言を。これは作者どうのというより出版社の売り方に疑問が。文庫本になったのに際し、帯が新しくなったのだが「ラスト1行の驚き!」などと書かれている。あまり言いたくはないが、こう書いてしまうとどうしても構えてしまう。これに限らずだが、個人的に「どんでん返し!」みたにな売り文句は嫌いだ。それを知ってしまうこと自体がネタバレになってしまう気がするのだ。あくまでも物語に没頭し、その中で驚きたい。始めに提示されるのは好きではない。まあ、こうでもしないと売れないというのが現状なのは分かるけどね。難しい所だなあ。


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