北山猛邦「千年図書館」

残暑が厳しい。そんな中、職場の事務所のクーラーがいかれてしまった。見てもらうと室外機の故障、とのこと。修理代は新品を買うのとほぼ変わらない値段らしい。じゃあ、ということで新品を買う流れになっているのだが、どちらにせよ早く買ってもらいたいものだ。冬になってしまうよ。

さて、読書。今回は北山猛邦さんの「千年図書館」を読む。ノベルス版だ。文庫では題名が変わり「さかさま女子のためのピアノソナタ」に変更された。独立した短編集でどちらも収録されている。

北山猛邦さんは「クロック城殺人事件」でメフィスト賞を受賞しデビュー。機械的なトリックを多用することから「物理の北山」と呼ばれている。個人的には物理トリックの面以上に氏が醸し出す、幻想的でありながら終末的で排他的な世界観が好きで、唯一無二の作者だと思っている。ミステリー界では知られた人物だが、実社会ではまだまだ知らない方も多く、売れて欲しい人の1人ではあるのだが。本作はそんな北山さんの第2短編(第1は僕たちが星座を盗んだ理由という小説)で雑誌「メフィスト」に収録されたものに書下ろしを加えた形となっている。全5編。ざっと紹介。

見返り谷から呼ぶ声」素晴らしい情緒溢れる作品。孤独な少女が振り返ると消えてしまう逸話がある場所で探しているものとは。ぶっ飛んだ設定ではないが驚きとラスト余韻が何ともいえない。「千年図書館」表題作。ラストの「あれ」はインパクトが強い。ネタバレを深くさぐっていくと感心する。なるほど、そういうことかと。全体的に怖い作品。「今夜の月はしましま模様?」収録作中、一番ぶっ飛んだ作品。ラジオに寄生した異星人「ラジー」との奇妙な共同生活かと思いきや・・・これは口あんぐりな案件。ラストはちょっと予測不可能。「終末硝子」は館ミステリ?に入るのかな。都会での喧騒に疲れて地元へ帰ってきた医者の主人公。しかしかつての村は異様な景観に変わっていた。亡くなった人物を祀るために大きな塔を建てる風習が跋扈しており、村の至る所に塔が立ち並んでいたのだ。これは北山さん得意の終末世界を感じる一編。村を牛耳る男が何故、「塔葬」なるものを広めていったのかが想像出来ない展開となる。実は作中のあるトリックが北山さんの過去作に似た出来て個人的にはニンマリ。ラストを飾るのは「さかさま少女のためのピアノソナタ」呪われた楽譜を手にした高校生ピアニスト。果たしてこの楽譜は本当に呪われているのか。という始まりから意外な展開にこれも持っていかれる。正直ラストはちょっと考えないと意味が分からないのがミソで面白い。

全5編ともにいえることだが、この短編集の素晴らしい所は始めに提示される謎や疑問に対してそれに固執するわけでなくそこから発想を飛ばして物語を進めるところにあると思う。そういった意味での発展の仕方は「しましま~」が一番か。個人的には「見返り谷~」がベスト。ミステリ的要素もさることながら読み終わってからの余韻が絶妙。北山さんが著者の言葉で書かれている、「物語のラストは折り返し地点」というフレーズがとても重くのしかかる。読み返して噛みしめたくなる作品であった。


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