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紀蔚然「台北プライベートアイ」

翻訳ミステリの自分の中での立ち位置が好調である。読みたい本がどんどん湧いてくるし、気力もある。以前に比べ訳文も気にならなくなった。この調子で後は古典と呼ばれるとこへ触手を伸ばしていければ。そんなことを思いつつ、今回は「台北プライベートアイ」を読む。昨年の作品じゃないか(笑)まあしょうがない。台湾発のハードボイルド探偵小説、ということで気になってたのだから。作者は紀蔚然(き・うつぜん)最近流行りの華文ミステリーということだ(厳密には台湾だが)

さて、内容はこんな感じ。著名な演劇界の監督で大学教授でもある呉誠(ウーチェン)しかし彼は幼い頃よりパニック障害に悩まされており、妻には親の介護を理由に逃げられていた。ある時舞台の打ち上げで、思いのたけをぶちまけてしまい演劇界にはいられない状況に。そんな事情もあって彼は憧れでもあった私立探偵を開業する。家族は当然反対するがお構いなし。たった1人で動き出すのだった。その後、初めての依頼を何とか解決させ、依頼人といい雰囲気となるなど、順調にすすめていたのだが警察に目を付けられてしまう。その理由というのが、巷を賑わせている連続殺人犯の容疑をかけられたからだった。当然、そんなことはしていないし腹もたった呉誠は真犯人を見つけるために立ち上がるのだった。

ざっくりに内容を書くとこんな感じなのだが、メインである連続殺人に巻き込まれるまで結構かかる。大体半分くらいまで来たところからスタートする。ここまでは物語としてもゆったりとしたもので、呉の独白が長々と続いたり、台北をぶらぶら歩いている情景が続いたりとのんびりしている。まあそれがまったりとしているかというと意外にそうでもない。独白部分では台湾の現状を憂いたり、自分の好きな小説について解説したりと作者を投影したかのような評論小説として読めるからだ。結構これが勉強になって良かった。で、中盤以降のメインだが、ここからはミッシングリンクとフーダニットに特化したミステリーへと変貌する。特にフーダニットに関しては伏線も効いていて「なるほど」となる。また、後に警察と協力して事件にあたることになるのだが、その過程が中々新鮮である。こういった手法でありそうでなかったパターンを見つけてくるのは単純に感心。ラストのオチに至るまできっちりと書かれていて大変に面白かった。難点もあるが初めて書いた小説としてはかなりの部類に入ると思う。作者の紀蔚然さん自身が劇作家の方なので物語を書くことに対しては手慣れているので、そこがプラスに働いたのだろう。

個人的には初めての日本以外のアジア小説だった。正直、全く読める気がしなかったのだが、まずまずのペースで読むことが出来て良かった。華文ミステリーは読みたい作品がまだ何作かあるし、また挑戦してみよう。


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