20230723

7月ももう終わる。
前回の日記を見たら、去年の10月とあった。
その間、何をしていたのだろう。
日記を書いていた頃は、なにも出来なくて、なにも覚えていなくて、幽霊になったような透明な日々で、それもそれで悪くはなかったのだが、死ぬに至らぬ要件があったから、せめて人間でいることをつなぎとめられるように書いていた。
今はそのようなことはないから、書いていなかった。
けれど、同じように、何をしていたのか思い出せない。
それでも、それを怖いと思わなくなったから、これを寛解と呼べるのだろう。

NHKの『ディープオーシャン』なる番組を見ていた。有人潜水艇で南極の深海を調査するというもので、南極海の酸素が豊富であるがゆえ赤血球が不要と考えられている透明な血液を持つ魚や、ほぼ虫みたいな極地巨大化の生命などの姿が捉えられていた。
すこし前に、沈んだタイタニック号を潜水艇で見に行くツアーの潜水艇が行方不明になった、という事件があった。
毎日、ニュースでは潜水艇に積み込まれた酸素が尽きるまで計算上はあと20時間、12時間……とカウントダウンをしていて、SNSの上でもその話がどこかで目につくから、どうにも息苦しかったのを覚えている。SNSでは、見つかりますように、とか、せめて安らかに眠って欲しい("有事の際"の為に睡眠薬も積み込まれている、と言われていた)、または所詮金持ちの道楽なんだしざまあない、とか、金持ちが今一番欲しい酸素吸い放題でうますぎる、とか言われていた。
遂に積み込んでいた酸素が計算上は切れる時間になり、それでも見つからなかった。多くの人は、潜水艇の人々が、低酸素のなか救助をただ待つことしかできない様を想像した。それは苦しく、それでも励まし合い、または罵りあうのか、無言のうちなのか、もしくはみな、夢を見ているのだろうか。
けれど、結末はもっと、予想よりも呆気なかった。
潜水艇の破片が引き揚げられた。
潜水を始めてから直ぐに、潜水艇は潰れて壊れたらしい。
遺体は、「遺体らしきもの」が揚がったのみだった。

励まし合いも、罵る言葉さえも、死を悟って家族や恋人への惜別の言葉も、恐らく言う間もなく、死は訪れた。
けれど、そんな極限状態になくても、己に死や病が訪れるときは、いつも突然なのであろう。死は無遠慮な役人のようで、真夜中に無愛想な顔で扉を叩く、というようなことをカフカも言っていたような気がするが、伝えるべきことは、べきとは言わずとも二度と伝えられなくなることは山ほどあって、そして呆気なくそれが出来なくなる瞬間が訪れる。
まめには書かなくなった。
すこし前と思っていたら1ヶ月も前だった。
その間にいくつもの出来事がすりぬけていく。

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