visibleとinvisibleのあいだに

少し前に、「ミセス・ハリス、パリへ行く」という映画を見ました。

正直、普段は映画館に行ってまで見ないタイプの映画なのですが(タイトルとポスターから大体どんな映画か予想できてしまうので、、)、よくいく映画館のポイントが溜まっていたのと、たまにはこんな明るく笑顔になるような映画も必要だ!と思って映画館へゴー。

結果、とってもよかったです。素晴らしい。思わず泣いてしまったシーンもあり。

ロンドンの家政婦さん、ミセス・ハリスがクリスチャン・ディオールのドレスに憧れ、すったもんだの末にお金を貯めてパリへ向かうのですが、そこで出会った人たちと思わぬ関係を築くことに、、、!
というめちゃくちゃよくある程の映画なのですが笑、でも今つくられた映画としてすごくポジティブなメッセージ性を感じました。

この映画のキーワードのひとつは、"invisible"だと思います。

例えば家政婦さんのミセス・ハリスは、嫌味な金持ちや偉い人たちから「ハリスさんはinvisible womanだからね」と本当に何度も言われます。
invisible woman。呪いの言葉ですよね。。「私は透明人間じゃないのに」と落ち込む姿も描かれます。

でも、物語が進むにつれ、invibisibleな存在であることを肯定していくところが、この映画の素晴らしいところだと思います。

映画の中でinvisibleな存在として描かれるのはハリスさんだけではなくて、例えば駅で寝泊まりしているホームレスだったり、お針子さんだったり。あるいは、ものすごく輝かしいスポットライトを浴びた美しいモデルの女性も、「本当の自分はこうではない」と、他人からは見えない、invisibleな深い影を抱えていたりする。

通常の映画であれば、「私たちはinvisibleじゃない!!」と大きな声をあげるんだと思いますし、この映画でも実際に彼ら/彼女らが団結していく姿は描かれているのですが、でも一番大事なメッセージは「invisibleな存在こそが一番大切なんだ、だから私たちは大事な存在なんだ、だって私たちがいなければ世界は動かないんだ」という、とっても強い、存在そのものへの肯定です。

「目に見えないものが大事だ」と言うものの、でも翻って自分自身のこととなると、「自分は誰からも見てもらえない、見えない存在だ」と思ってしまうことほど辛いことはないと思います。「私を見て!!」と大声で叫びたいですよね。

でもこの映画でハリスさんは、「あなたがたとえ誰からも見えてなくても、私はあたなを見てるし、そんなinvisibleだからこそあなたは大切なんだよ」と、visibleとinvisibleの間のちょうど真ん中を肯定するんです。これって、すごく強いなと思います。あなたは、あなたのままでspecialなんだよ、ってことですよね。LizzoのSpecialと通じる精神がある。
(ちなみに、劇中ではサルトルの著作や哲学が重要なポイントで、しかし嫌味なくコメディタッチに登場してくるので、実存主義を勉強している方からしたらもっと違う味方になるのかもしれません。勉強したい)

他にも面白ポイントが結構あって、例えばミセス・ハリスがパリへ行く資金を集める過程とか、パリでなんやかんやうまく物事が進んでいくところとか「そんな映画みたいなこと…あるんかい!!!」とツッコミを入れたくなる方向に敢えて振り切っていて、とっても好感が持てました。
だって本当に「映画みたい」にうまくいくんですよ!面白すぎてずっとニコニコ笑ってしまいます。

衣装もかわいいし、パリとロンドンを旅した気分にもなるし、純粋にほっこりしたいな、という気分のときもおすすめです。
劇場じゃなくてもいいかもですが(笑)、ぜひウォッチしてください!

あらすじ
舞台は1950年代、ロンドン。戦争で夫を亡くした家政婦がある日働き先で1枚の美しいドレスに出会います。それは、これまで聞いたこともなかった、クリスチャン ディオールのドレス。450ポンドもするというそのドレスに心を奪われた彼女はパリへディオールのドレスを買いに行くことを決意。新しい街、新しい出会い、そして新しい恋・・・?夢をあきらめなかった彼女に起きる、素敵な奇跡。いくつになっても夢を忘れない―見た人誰もがミセス・ハリスから勇気をもらえる、この冬一番のハッピーストーリー!

https://filmarks.com/movies/103146