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日本が「ゆでガエル」の道を歩まないために 参加レポート

「トーク会」第160回とのコラボイベントとして、講演者に中沢先生をお呼びし、関西及び日本のイノベーションの課題についてお話しいただきました! 日本の厳しい現状がデータとして鮮明に示される中、じゃあ今後どうするべきか、を自分に問うことが出来るとても良い機会となりました。

イベント概要

開催日:11月11日
開催場所:オンライン(Zoom)
講演者:中沢 則夫 先生

講演者プロフィール

中沢   則夫 先生
うめきた未来イノベーション機構 理事長

神戸市出身。東京大学法学部卒業後、通産省(現・経産省)に入省。以後33年余りにわたり、多数の幅広い活動場面で多角的な視点から産業政策に関わった。
この間に、通商問題(自由化交渉、ODAを含むアジア政策等)、環境政策、知的財産政策、技術振興政策、マクロ経済分析を担当したほか、産業担当として情報産業、鉱物資源産業、金融行政に関与。在外勤務3回(フィリピン、韓国、米国)、英国ケンブリッジ大学客員研究員、地方自治体勤務(千葉県庁)、官民交流制度による民間企業勤務(日本電産)も経験。2017年から2019年までのサンフランシスコ勤務(JETRO所長)を最後に退官。
2020年から大和総研特別研究員に就任し、政策分析・マクロ経済分析を担当。2022年10月から現職。日本に残された最後の巨大な一等地うめきた地区(大阪駅前)においてイノベーション振興を企画。関西経済活性化を目指す。

内容

日本の現状

  1. 「失われた日本」の強烈なインパクト

  • 日本はGDPで2010年頃中国に追い抜かれ、インドにも抜かされそうといった状況。先日、ドイツのGDPが日本を抜く見通しであるとIMFより公表があった。https://www.nikkei.com/article/DGKKZO75767950R01C23A1EAC000/

  • 日本企業の世界競争力は1990年代には世界トップであったが、2023年現在35位まで低下している。

主要国名目GDPの推移(1980~2021年)
※本講演資料より引用戦後日本経済の大きな流れ

2. 戦後日本経済の大きな流れ(成長率の推移)

  • 人口のピークアウト、その中でも特に生産年齢人口の減少が大きく影響し、日本のGDP成長率は低下し続けている。この生産年齢人口の減少については、欧米諸国等の先進国よりも急激に状況が悪化している。

戦後日本経済の大きな流れ(成長率の推移)
※本講演資料より抜粋

3. 日本の潜在成長率の推移

  • 潜在成長率が低いことが、一番の懸念要素である。

  • 潜在成長率では、「資本」「労働」「全要素生産性(技術)」が3つのファクターとなっている。下図について、アベノミクスの効果の一つとして「労働」の項目(緑色)が増加しているが、「技術」である青色の増加は見られない。

日本の潜在成長率の推移
※本講演資料より抜粋

4.  日本経済が抱える5つの構造問題

日本経済が抱える5つの構造問題
※本講演資料より抜粋
※原典:大和総研経済予測

日本の産業政策

「産業政策」≒成長戦略(成長を志向すること)のための諸施策と考える。

1.産業政策の役割・機能
産業政策は政府の基本的な役割ではないが、現在の日本の局面においては非常に大切な役割を果たす。特に、「市場の失敗」への取り組みという意味合いが強い。
※市場の失敗とは市場メカニズムが上手く機能しないケース(例えば、公共財、外部経済、独占、情報の非対称性等)の事をいう。

産業政策の機能/役割
※本講演資料より抜粋

2.産業政策の主な手法
産業政策は経済を活性化するためにとるあらゆる手立ての事を指すため、経済産業省のみではなく、全ての省庁が関わりうる。例えば、とある省庁がAという業界/分野にかかる規制を変更すると、A分野に投資が集中したり、A分野への投資が縮小することもある。近年は、審議会等にて、コンセンサスの形成や需給の見通しを共有する事も、産業政策の一つの手法として位置づけらえれている。

産業政策の主な手法
※本講演資料より抜粋

3.日本の産業政策の重点の変化
産業政策は時代によって重点が変化してきた。特に、重工業→軽工業、製造業→サービス業などの変化は一般によく知られている。一方で、産業政策とは経済を活性化するためにとるあらゆる手立ての事を指すため、企業ではなく消費者が対象になることもある。例えば、近年は困難者の支援も産業政策の重点の一部として扱われるようになってきた。

日本の産業政策の重点の変化
※本講演資料より抜粋

4.日本の産業政策の新機軸

先述のように、日本の産業政策は時代によって重点が変化してきた。近年は、アベノミクスによるデフレ脱却が大きな軸となっていたが、ポストコロナとなった現代、産業政策の軸は変わりつつある。大きな流れとして、これまでは公平な産業政策(特定産業を特別扱いしない)が主軸であったが、個別企業や産業(特に半導体)に重点を置く政策が検討・施行されている。

日本の産業政策の新機軸(検討中のもの)
※本講演資料より引用
※原典:経済産業省産業構造審議会資料

ベイエリアから日本が学ぶこと

岸田政権が掲げる新たな資本主義によりイノベーションを重点項目として掲げる日本が、アメリカの10年先を行くともいわれるベイエリアに学ぶことは多い。ベイエリアに根付く価値観の例として、第三意識という考え方がある。一般的には、人々の持ちうる意識段階は第一意識(自己中心・拡大)と第二意識(管理志向)を往復することが多い。一方ベイエリアでは、二段階の次に、第三意識(新たな価値の発掘)が存在する。例えば、下記資料をなぞると、ロック、ヒッピー、ドラッグ等の文化や、環境影響に強く配慮する環境志向等は、特にベイエリアを中心に発展したものであり、従来にはない新たな価値創造があったことが分かる。
日本に当てはめると、高度経済成長期末期においては、第二意識である管理段階以降、新たな価値の発掘(第三意識)まで到達せず、結果として持続的な経済成長にはつながらなかった。今後イノベーションを推進するうえで、第三意識を念頭においてこれからの社会活動に取り組むことは、日本が再度世界で競争力を持ち巻き返しを図るには、極めて重要といえる。

ベイエリアの価値観の底流「第三意識」
※本講演資料より抜粋

うめきた再開発事業について

現在U-FINO(うめきた未来イノベーション機構)では、梅田駅前にあるうめきた地域の再開発事業に取り組んでいる。梅田は半径5キロ圏内(うめきた圏)に複数のイノベーション重要拠点、また、半径50キロ圏内(うめきた広域圏)で関西経済の8割程度をカバーしている。他の拠点との協力関係を築きながら関西経済全体の底上げに取り組んでいる。
具体的なU-FINOの取り組みについては、ホームページを参照

うめきた2期再開発
※本講演資料より抜粋

参加者の感想

・大変勉強になりました。自分自身を見つめ直すことができ、反省を含めて勉強になりました。是非とも引き続き講演等ございましたら、聴講させて頂きたく思います。

・うめきたのお話はとても刺激的でした。大阪は東京のミニモデルに陥ってはいけないと思いますし、失敗を許容する文化もあるかと思っています
                                  ・日本の産業政策についてのご見識を拝聴できて素晴らしい機会でした。
                                  ・日本に抱いていた閉塞感のようなものを言語化していただき大変面白く拝聴させていただきました。関西経済活性化のためのうめきたプロジェクトを含めて今後のご活躍をお祈り申し上げます。直接お会いして議論させていただける場があれば大変嬉しいです。

最後に

私もインターンとして参加しているJABI-SVはシリコンバレーに拠点を持つNPOで日本とアメリカのビジネス振興、国際人材の育成を目的に活動しています。各界の著名人の講演や最先端技術の紹介など積極的に行っています。
詳しくはウェブサイト( https://sites.google.com/view/jabi-sv/home )をご確認ください。

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