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0「或る星から」

00:挨拶

やあ!僕はニンゲン。四角い体に、4本の細長いひも状の足がついている。四角い体は知的な証。4本の足を巧みに動かして生きてきたんだ。
口が無いのにどうして喋れるのかって? 変なことを聞くね。誰だって口が無くても喋れるだろう。大体、口なら有るんだ。普段は見えないだけ。しゃべるのには使ってないけど、食べるのには必要だからね。
僕が好きな食べ物は、四面体の“キュー”。最近はこればっかり食べちゃうんだ。面白い味だから。ところで、君はお腹は空いていないの? 食事をするなら街へ行こうか。ジンコウブツは”キュー”は食べないだろう。ここは街より南側だから一番高いビルにはすぐ着くよ。
街に行くには、かまくらを出て右に真っすぐ進めばいいんだ。君の移動速度だと30分くらいかな。大丈夫、歌でも作りながら行けばすぐだよ。水筒も持ったし、早速行こうか。

歌を作るのは半年ぶりだから、少し緊張しちゃうな。僕が詩を作るから重ねてね。
「水になる大きな砂と黄色いキュー 小さな岩は泣いている 茶色いキュー流れに沿って走ってる 小さな海に向かってる 大きい池キューたちみんな笑ってる」
こんな感じでどうかな。じゃあ君の番。メロディーを重ねてね。大切なのは、重ねること。ぶつけちゃだめだよ。次元を上げるんじゃなくて、伸ばすんだ。じゃあやってみて。
「水になる 大きな砂と 黄色いキュー 小さな岩は…」
小さな岩は のところが重なってないね。詩を分解して、組み立て直そう。大丈夫、君がメロディーを持っているから、構造は変わらないよ。小さな岩は泣いている は後ろの方に移そう。
「水になる 大きな砂と 黄色いキュー 茶色いキュー 流れに沿って 走ってる 小さな海に向かってる 大きい池 小さな岩は 泣いている キューたちみんな 笑ってる」
良い感じになったね。ほら!あれが町で一番高いビル。四角くってとっても知的だろう。さっきの歌を歌っていればもう着くね。



01:食事

よーし、到着!君の言うとおりだったよ。僕もたくさん歩いてお腹が空いたから、何か食べることにするよ。街には、美味しいとされるものがたくさんあるからね。食事をするところはビルの最上階。上から街を一望できるんだ。街を見下ろすことと食べ物の味にどういう関係があるのかよくわからないけど。さあ行こう。

このエレベーターは浮力を使って上がるんだ。カプセルに入ったらチューブに移されてその中を浮かび上がることで移動できるんだよ。最上階に行くには、あの白い水の入ったチューブだね。

さあ着いた。ここが最上階。あそこの窓の近くにしようか。美味しそうなものがいっぱいあるよ。僕はこの丸いヤツにしようかな。君は何にするんだい? それ? ホントにそれでいいの? 食事をするなら四角じゃなくて丸い方がいいんじゃない? まぁいいか。君が好きなモノを選んだんだから。僕はこれ、こっちの丸いヤツ。じゃあ、窓の近くの席に行こう。

ほら!すごいだろう。この景色。街が見渡せるんだ。この街のビルの屋上は全部、花畑になっているんだ。そして、その位置に対応した色の花を咲かせるんだよ。ほら、あそこの真ん中のビルは、灰色の花が咲いているだろう。彩り豊かでとってもオシャレな街なんだ。

あ、食事が来たよ。君の四角いのも美味しそうな気がするよ。僕のは丸くていかにも食事って感じだろう。何だろう、今まで食べた食事の中で一番美味しい気がするよ。誰かと食べると味が変わるっていうのは本当だったんだ。こんなに食事が美味しいと感じたことはないや。美味しい。美味しい。
君の四角いのも美味しいかい? 僕のと少し交換しようよ。ん? ああ、僕の口がどうなっているのか気になる?ほら!立派な歯が揃っているだろ。毎日磨いているんだ。これでなんでも嚙み砕けるんだ。



10:記憶

美味しかったね。お腹も膨れたし、そろそろこの先のことを決めないと。君はやっぱり故郷に帰るんだろう? ここは素敵な場所だけど、もうすぐ無くなっちゃうんだ。それに、君がいるべき場所ではないんだよ。君には行くべき場所がある。
僕だって、ここについてはそんなに多くは知らないんだ。君がいつどこでここに迷い込んだか覚えてないのと一緒で、僕もどうして、自分がここにいるのかわからない。だけど、僕は覚えてないんじゃない。初めから知らないんだ。君は覚えていないだけ。思い出すことでわかるんだろう。僕は知らないんだ。知らないし、知れない。知れないということだけは、知っているんだ。でも大丈夫。君は思い出して。そして帰るべき場所に、行くべき場所に行くんだ。このビルの屋上に、宇宙船発射場があるよ。そこから帰れるんじゃないかな。どこへ帰るって、それは思い出してもらわないと…

うーん。じゃあ、僕が知っていることを教えてあげる。でも、僕は知的だから、すごい情報の量なんだ。だから、全部を教えてあげることは出来ない。一番重要な、この世界の構造について教えてあげるね。
この世界は誰かが支えているんだ。誰かの手のひらの上で、何かの力で、世界が動いている。それはつまり、誰かが作っているってこと。この世界を、この星を、誰かが作っているんだよ。誰かはわからない。でも誰かいるってことは分かっているんだ。
ニンゲンなのかって? 僕らニンゲンにそんな力あるわけないだろう。星を作っているのはニンゲンじゃない。カミさ。誰かはきっとカミなんだ。そして、そのカミはもうすぐこの星を手放すんだと思う。なんでかって? そんなの簡単だよ。真っ黒なんだこの星は。真っ黒なんだ。色々混ざって、もう戻せないのさ。真っ黒なことだけが、この星が残っていられる理由さ。そしてもう、その理由もなくなるんだ。黒くなり過ぎて、闇に包まれるんだ。闇に包まれると光もなくなる。光が無いと色が無い。色が無いから黒もない。真っ黒なこの星は、真っ黒かどうかも分からなくなってしまう。だから、もうすぐ終わるんだ。
君は、行かなきゃ。行けるんだ。ジンコウブツだろう。ジンコウブツなら出来ないことはないよ。なんだって出来る。さあ、そろそろ思い出しただろう君の行くべき場所に。宇宙船の準備をしよう。



11:宇宙

宇宙船は自動で進んでくれるよ。とっても速いからすぐ着いちゃうだろうけど、君の故郷がどれくらい遠いかよくわからないからな。まあ、歌でも作っていればあっという間さ。君のことは、忘れない。絶対に。だけど、僕のことは忘れてもいいよ。もうすぐ終わるんだ。終わったらどうなるのかって? そんなの終わってみないと分からないよ。でもきっと、水になるんだ。水になって、そのうち次元を上げてもらえるよ。そしたら、もう、こことは呼べないかもしれない。だけど大丈夫。宇宙はずっと大きくて、世界はもっと小さいから。君が望めば、また来れるさ。今回みたいにね。

さ、そろそろ出発だ。元気でね。

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