クアダール②


3度目に会ったのは、何でもない日の何でもない夜だ。普段通りにベッドに横になった僕は、疲れていて眠りについた。


森の中のような場所、クアダールは木に持たれるように立っていた。遠くから微かに滝の音がする。水辺が近いようだった。
「何か聞きたいことがあるでしょう」
クアダールは全て知っているかのように聞いてきた。僕は答える。
「クアダールは悪魔なの?」
夢の中の僕は少し焦った。聞こうと思った内容と自分の言動が違った。しかし夢だから、こういうこともある。クアダールは応える。
「クアダールは悪魔です」
そんな答え合わせ、何の意味もない。僕はもう一度尋ねた。
「クアダールは現実でも会える?」
クアダールは応える。
「クアダールは現実でも会える」
そういうと、クアダールは木の陰に消えていった。


目を覚ます。夢だったのかとスマホを見ると5時間が経っていた。スマホ画面が指紋で勝手に開く。ブラウザだった。「該当する検索結果は見つかりません。もしかして:クアドール」という表示が出てきた。クアダールとは何語なのだろう。それが聞きたかった。そう思ってそのままもう一度眠りについた。夢は見なかった。




「きっかけは何でもいい」図書室の新着コーナーに置いてあった自己啓発書のタイトルが目に入った。変なタイトルだなと思ったけれど、売れるキャッチコピーなのだと、なんとなく理解できる。

きっかけ…は、おそらく…
「いじめ、ニュース、自殺…?」
音にもならない程の小声でつぶやいたら、後ろからクラスの女子に声をかけられた。
「何真剣な顔して。そこ自己啓発でしょ?どれも一緒だよ。」
どうやら、自己啓発の本を一生懸命に探している人に思われたようだった。

適当に返事をして、その場を去る。図書委員に睨まれたのは、喋っていたからなのか、彼女に気があるのか、まぁとにかく自分が睨まれるような何かをしたのだろう。クアダールと出会うには何かきっかけがあったのだろうか…そのことが気になっていた。





その日の夜、寝る前に自殺者数を調べた。何となくだった。何となく、クアダールに会える気がした。



4度目は自発的に会えた。
夜の森だ。クアダールの姿はどこにも見えなかった。何となく存在は感じられる。こちらの声が届く気がして、
「自殺のニュースがきっかけで、クアダールに会うようになったの?」
と話しかけた。クアダールははぐらかすように答える。
「それはどうでしょう。私にも正確なことはわかりません。でも、トリガーは死でしょうね。私、悪魔なので。あと、『会えるようになった』というものではないですよ。もともと誰であろうと会おうと思えば会えますよ。」
自分の直ぐ背後から声が聞こえて振り向くが誰もいなかった。


一瞬の静けさ、風が木々を揺らす音。クアダールがどこかに行こうとしている気がして、
「だけど…」
と声を掛ける。
「この前は、何でもない日の何でもない夜だったはず。死に関するニュースも噂も聞いてない。なのに会えたということは、会えるようになったということだろう。」
そう言うと、地面の影からクアダールは現れて応える。
「そうだとすると、あなたが潜在的に死について考えているということです。だから外的な刺激が無くても私に出会えたのでしょう…とでも答えれば満足ですか。だいたい、悪魔というのもあなたの概念に擦り合わせているだけで、私はただのクアダールという名の存在です。」
クアダールは少し怒っているようだった。
僕は構わず尋ねる。
「夢に出てきて、何か目的があるのだろう。僕に何をさせたいの。」
クアダールは呆れたように鼻で笑って応える。
「そんなものはありません。だって会いたいと思ったのはそちらでしょう。今日だって、わざわざ寝る前に自殺者数を調べて会えるようにした。そんなにあなたのことなんか興味無いですよ。それじゃもう行きますね。」
そういうとクアダールは地面の影に消えてしまった。風が木々を揺らす。クアダールは去ったようだった。




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