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武蔵五日市が好きだった 【連続小説6日目】

武蔵五日市という場所をご存じだろうか?

中央線の終点。東京都あきる野市にある駅だ。拝島から五日市線に乗り換えた最終地点。線路がそこでピタッと止まっている。まさに最後の最後。東京の端の端。

村田仁が生まれて育った場所だ。

村田は武蔵五日市駅から徒歩5分程度の一軒家で生まれた。小中高と地元の学校に通い、大学は都内の私立大学に通った。

大学卒業後は都内の専門商社に勤務した。2年間は中野、その後、王子に住み、おととしから武蔵五日市に戻ってきた。

都内の空気と地元の空気は違う。


今日はいつもより少し早く上がれた。
最近は繁忙期ということもあり、帰りが遅い日が続いた。拝島からの電車は車両に1人か二人、誰もいないなんてことも多かったが、今日はまだ19時過ぎ。座席は埋まっている。仕方なく、入り口付近に立ち外を見る。ようやく日が暮れるのも遅くなってきた。山沿いを走るJRからの景色は美しかった。

やっぱり俺はここが好きなんだな。

東京。ではあるが、23区じゃない。多摩地区ではあるが、武蔵野や立川、八王子や町田じゃない。

東京出身者でもあまり知らない。武蔵五日市。

武蔵引田を過ぎたころから急激に外の気温が下がった気がする。まだ夜は肌寒い。

中高の時はとにかく地元が嫌いだった。何もない。遊ぶ場所は川だけで、立川まで出るのも時間がかかる。ととっと出てやるこんなところ。
そう思っていた。

ようやく社会人になって出た中野でその思いは打ち砕かれた。

東京はスピードが速すぎる。何をするにも便利だが、何をするにもせわしない。

山手線が5分来なければイライラが止まらない。五日市線なんて20分来なくても平気だったのに。

地方出身者には東京出身とみられ、東京出身者とも共感できない。

そんな武蔵五日市。

電車に乗っているだけ。顔も名前も知らない乗客たちだけが自分の「友」に見えた。

30代サラリーマン2児の子持ち。某メディアで勤続10年あまり。写真と本と日々思いついたことを書いていきます。カメラはa7iii。下手の横好き。贔屓チームはヤクルト。