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ブラックひとり社長の仕事術 泥くさく這いずりまわれば勝機あり

サラリーマンをやめて、起業して食べていく。

起業の本や、成功している人のブログやツイッターを読んでみる。

生産性を高めよう。電話やFAXなんか使うな。ペーパーレスだ。利益が低い仕事は切れ。時間とお金がムダだから、現場に行かずとも仕事ができる仕組みを作れ。

そんなことが書いてある。スマートにやろうよ、というわけだ。

フツーのオジさんが、こんなのマネすると危険だよ。オジさんはスマートじゃないし、世の中もそんなにスマートじゃないんだから。

アンチスマートのすすめ

起業して6期目。電話は積極的に使う。さすがにFAXはどうなんだろと思いつつお客さんの要望があれば対応する。紙の資料を配付する。利益が出ない仕事をていねいにすくいあげて、ちょっとずつ育ててきた。

取引先の担当者が夜勤だから、夜中の電話にも対応する。長時間労働もやる。世の中的には「ブラック企業」というやつ。

ひとり社長だけど。

高い生産性とスマートさばかりを尊ぶ風潮だ。しかし世の中、スマートさばかりで成り立っているわけじゃない。

人の行く裏に道あり花の山、という。アンチスマートにもまた、チャンスはある。

電話に出れば新しい仕事が生まれる

電話には暴力性がある。だからこそ、使い方に注意しよう。間違っても、電話営業なんてしてはいけない。

ちょっと前までは、電池がもって、落としても壊れにくいガラケーを使ってた。これはお客さんからの着信に必ず出るため。今では、Apple Watchによる着信の通知が便利すぎて、iPhoneにしたけど。

電話が鳴る。発信者を見る。どんな要件かを予測する。受話ボタンを押すまでのわずかな時間で受け答えまでをシミュレーションする。

お客さんからの電話はほとんど、不明なことへの質問、困っていることの相談、クレームだ。これらはすべて、新しい仕事につながる。電話の優先度を下げるなんて、もったいない。

お客さんが夜勤のシフトとなると、先方は遠慮して発信してこないけど、こちらから夜に電話することはある。夜勤のシフトは1〜2週間続くので、昼勤にもどるまで待ってると仕事がそれだけ遅れるから。

電話は常に臨戦態勢で。仕事を取れるなら夜討ち朝駆けもガンガンやろう。

ローテクの象徴「ファックス」は金のなる木だ

ファックスは今の時代、電話以上にローテクなものとして、忌み嫌われる。

時代遅れ。カッコ悪い。生産性を高め、スマートに仕事したい人たちは、目の敵にする。海外ではもう過去の遺物だというし。

でも、ファックスは、業界によってはいまだに重要な連絡手段だ。海外がなんといおうが、スマートな人たちに笑われようが、お客さんが求めるなら堂々とつかおう。

伝票や報告がファクスで来ることが多い。それはそのまま請求書の数字となる。その数字を元に、来月末には口座にキャッシュが振り込まれる。

もう、ファックスがおカネみたいなもの。着信するたびに(実際にはネットファクスなので書面がPDF化されてメールがくる)、

「ありがたい!」

と手を合わせる。

こちらが支払う請求書もファックスで来る。バンバンくる。入金あれば出金あり。お金を回す輪の中に加われていることが、幸せだ。

ペーパーレスよりペーパーが強い

紙の文書を管理するのは手間だ。ペーパーレスが実現すればどれほどイイだろうか。

しかし、お客さんは「紙でくれ」という。

「明日の会議、出席者は18人だから資料を人数分用意して下さい」

とか。

あらかじめ資料をPDFで送ってあり、会議参加者はみなノートPCを持参し、さらにはプロジェクタで資料を投影するのに、だ。

しかし、紙。これにはわけがある。

会議参加者は工場の現場担当者。職場に帰れば、作業着のポケットに紙の資料を入れて、現場を歩く。何かあると、そこで資料を出して、私に電話をかける。

現場で打ち合わせ中のこと。お客さんが、半年前に提出した紙の資料をポケットから取り出したことがあった。

A4の一枚の紙。何度も折りたたまれ、すり切れ、破れ、殴り書きのメモがびっしりと書き入れられていた。

そこから新たな仕事が生まれた。どれだけIT化が進んでも、工務課の担当者が現場を歩くときに持ち歩くのはタブレットでもスマホでもなく、紙とペンなのだ。

18部の資料のうち、17部まではリサイクルボックスに直行だとしても、1部は仕事につながるかもしれない。

だからよろこんで紙の資料を用意する。

カネと時間をかけて現場に足を運べ

生産性を高め、スマートに仕事をする。そのためにはわざわざ出かけて人と会う、ということを否定する風潮がある。

現場に行かないなんて、もったいない。利益は現場に落ちている。

得られる粗利が数百円の小さな取り引きだとしても、数千円の交通費と半日程度の時間をかけて出かけることもある。完全な赤字。でもこれは投資だ。

商売は、その小さな取り引きだけで終了ではない。お客さんと顔を合わすことで次の仕事をいただく可能性が高まる。

現場を見れば、提案できることが山のようにある。これほど大きなりターンが見込める投資は、あまりない。

数百円の小さなビジネスもていねいにやる

利益が少ない仕事はあえて捨てよう。これも、起業関連の本やブログにはよく書いてあることだ。

しかし、たとえ粗利が月間数千円程度だとしても、捨てるなんてとんでもない。とくに、企業間取引であれば、低い利益でも取り引きを継続することには大きな意味がある。

ある程度の規模の案件が発生すると、たいていは競合があらわれるが、たとえ少額でも実績があれば、優位に立てる。これは、こちらが仕事を発注する側に立てば、よくわかる。小さなことでも手を抜かず、しっかりやってくれる業者には、仕事を発注したくなるもの。

大きな仕事はある日突然、発生するのではない。小さな仕事を少しずつ、育てて大きくしていくのだ。

優秀ではないフツーのオジさんのサバイバル

電話やファクスを駆使し、現場に足を運び、紙の資料を配付し、利益の小さな仕事もていねいにやる。

まったくスマートではなく、生産性も低く、それゆえに長時間労働もいとわないスタイルだが、事業は趣味のようなもので、ゲームでもあり、楽しんでやっている。

注意する点は、お客さんとの接点はローテクで泥くさくていいんだけど、自社内で完結する作業フローは生産性を高める努力を惜しまないこと。

そこまでローテク上等だと、さすがに寝るヒマなくなるから。

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