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推しを、得る。✿第21回|実咲

まひろ(紫式部)の父為時ためとき越前守えちぜんのかみ(福井県知事のようなもの)になり、任国へと旅立った前回の「光る君へ」。
ついに今週は敦賀へとたどり着き、やがて越前国府(つまり福井県庁)に至りました。
京都から福井へ向かうには、鉄道が発達している現代ではさほど難しいことではありません。
北陸新幹線の開業に合わせて、特急サンダーバードは福井市まで行かず敦賀止まりになってしまいましたが、越前への道のりは現代ではとても遠い場所という感覚はないかもしれません。
しかし、当時の都人の意識としては、都のある山城国と近江国の境目である逢坂関おうさかのせきを越えた先は「がい」であり、「遠国」でした。ちなみに「ない」とは都に近い大和(奈良)・山城(京都南部)・河内(大阪東部)・和泉(大阪南部)・摂津(大阪北部・兵庫東部)を指す言葉で、この地域に近いのが「近畿」という意味です。
まひろ達一行は、逢坂関を越えて近江に入り、琵琶湖を船で渡って越前へと向かいました。
都を離れる人を見送りに行くのは、この逢坂関まで。別れを惜しみ、再会を願う場所が逢坂関でした。
そのため、多くの和歌の題材、「歌枕」の地となっています。百人一首にも、逢坂関は登場します。

これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関

蝉丸(第十番)『後撰和歌集』雑歌一

また、関を越えるか越えないか、という意味で男女の仲を指し示す言葉でもありました。

夜をこめて 鳥のそら音は はかるとも よに逢坂の 関はゆるさじ

清少納言(第六十二番)『後拾遺和歌集』雑歌

清少納言がんだこの和歌は、『枕草子』にもエピソードがある行成ゆきなりにあてたものです。
さて、「光る君へ」ではこのシーンは果たして登場するのでしょうか……?

今回の第22話では行成は目立った動きはありませんでした。
ごん』もこの時期に書かれたものはあまり残っておらず、ピンポイントでの活躍が分からない時期です。
そこで今回は、行成推しとしてとっておきの、研究書ではなくぜひ集めたくなる「推し活グッズ」を紹介したいと思います。

その1 ポストカード

升色紙 伝藤原行成筆

行成は再三お伝えしていますように、三蹟さんせきと呼ばれ書家としても高名でした。
その筆跡は権蹟ごんせきと称されて国宝になっているものもあり、各地の博物館などに収蔵されています。
収蔵されている施設へ行かれた際に、ぜひ探してほしいのがミュージアムショップ!
展示されている期間でなくとも、行成の筆跡のポストカードがある場合があります。
こちらは私の友人が、ありがたくも五島美術館で見つけてくれた物です。
世田谷区の上野毛にある五島美術館は、源氏物語絵巻や紫式部日記絵巻も収蔵しており、平安オタクとしては見逃せない場所です。

その2 いわ清水しみず八幡宮 一ノ鳥居扁額へんがくマグネット

お守り等と一緒に授与所で入手できます。ローマ字表記入りです。

八幡宮は応神おうじん天皇を含む八幡神を祀る神社で、つまり天皇家の祖先とされる皇祖神を祭る神社ということになります。
元々は大分にある宇佐神宮が本宮で、京都南部の八幡市にある石清水八幡宮は簡単に言うと八幡宮の京都本店のようなものでした。
ちなみに奈良本店は、東大寺に隣接する向山むけやま八幡宮です。
「光る君へ」の紀行コーナーでも紹介されましたが、石清水八幡宮は一条天皇が参詣するなど貴族たちからも信仰されていました。

この石清水八幡宮の参道の入り口にある一の鳥居に掲げられている「八幡宮」という額は、一条天皇の命により行成が書いた物を、後の時代に書写し作られたものです。

これ!!ここ!!!!

「八」の字が、八幡神のお使いである鳩が二羽向かい合うという形で表現されたなかなか凝ったデザイン。
その額のミニサイズのマグネットが、石清水八幡宮の参拝記念品になっているのです!
平安貴族の追体験をするなら徒歩かちで参詣したいところではありますが、私はケーブルカーという文明の利器に頼りました。

その3 曼殊院門跡まんしゅいんもんぜき 御朱印帳(納経帖のうきょうちょう

見た目も麗しい最高の行成グッズです。

京都の東山一条寺近くにある曼殊院門跡は、国宝「曼殊院本古今和歌集」が伝来する天台宗のお寺です。
この「曼殊院本古今和歌集」を書いたと伝えられるのが行成で、現在京都国立博物館に収蔵されています。
行成の美しいかな文字がデザインされた御朱印帳、行成オタクとしては見逃せない逸品です!

夏場に行ったので死にかけましたが、素敵な古刹でした。
幽霊の掛け軸でも有名ですが、「撮影厳禁」です……。

その4 王羲之クリアファイル

裏面の説明書きは日本語表記有。

和様書道の大成者とも称される行成。
その筆跡は、行成の生まれる六年前に没した小野おのの道風みちかぜの影響を強く受けています。
それは、小野道風のことを夢に見るほどだったそうです。
そして、その道風が影響を受けていたのが、蘭亭序で有名な中国の書聖おう羲之ぎし
つまり、王羲之は推しの推しの推し。(行成も王羲之の影響を受けているとされています)

漢文が読めると解説文がわりと読めます。4時間滞在しました。

推しの推しの推し、王羲之は台湾の国立故宮こきゅう博物院に作品が収蔵されています。
その国立故宮博物院のミュージアムショップで、売っていたのがこの王羲之クリアファイル!推しの推しの推しは、もはや推し!!
残念ながら実物を拝むことは出来ませんでしたが、遠く台北の地で推しの推しの推しに巡り合った瞬間、自分のお土産に即購入となりました。

現在入手可能かどうかは定かではない物も含まれますが、行成推しとして見逃せない物ばかりです。
ほかにも行成グッズをご存じの方は、ぜひご一報ください……!!

書いた人:実咲
某大学文学部史学科で日本史を専攻したアラサー社会人。
平安時代が人生最長の推しジャンル。
推しが千年前に亡くなっており誕生日も不明なため、命日を記念日とするしかないタイプのオタク。