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風景のレシピ | nakaban

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私たちは本当には何を見ているのか――「旅と記憶」を主題に絵を描く画家のnakabanによる、風景画へのまったく新しいアプローチ。人が世界をどう見て、どう捉え、どう表現するかという… もっと読む
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2022年10月の記事一覧

風景のレシピ #22 “知らず知らずの境界にて”| nakaban

風景のレシピ #22 “知らず知らずの境界にて” 1.冬の冷たい空気を全体にひろげる。 2.中央に道を通し、遠くに寂しげな門を置く。門の向こうの風景は、想像できない。 3.空の中央あたりにハロを纏った太陽を浮かべ、それを取り囲むように枝を這わせる。 4.枝の根元をしっかりと着地させ、100年ほど熟成させた石壁で囲う。 5.石の上には忘れ物のようにオブジェを置き、木々にはアトランダムにヤドリギを付着させる。それらが知らず知らずのうちに全体の佇まいを整える。

風景のレシピ #21 “鳩小屋”| nakaban

風景のレシピ #21 “鳩小屋” 1.材木で小屋を建てる。骨組みが仕上がったら、格子もしくはアーチ状の窪みを設け、最後にペンキで塗装する。 2.窪みに藁や草を敷く。 3.新月の夜に、数十羽の鳩を優しく手に包み、眠らせながら窪みに置いていく。 4.翌朝、鳩が眠りから目覚める直前、梯子を登って天窓を開けておく。

風景のレシピ #20 “朝焼けの海”| nakaban

風景のレシピ #20 “朝焼けの海” 1.早朝の冷気と陽光をよくかき混ぜ、朝焼けをつくる。 2.雲と遠くの島はよく伸ばす。海には小舟をばらまく。 3.坂道を一本通し、左右に苔に覆われた古壁を添える。 4.危険な崖に鉄柵を設置する。眼下に港町をひろげる。 5.通行人と一緒にしばらく風景を眺める。 6.家々から立ち昇る煙や朝霧を全体に馴染ませ、仕上げる。

風景のレシピ #19 “イタリアかさ松のある町”| nakaban

風景のレシピ #19 “イタリアかさ松のある町” 1.海岸に近い土地に古家を一軒建てる。   家の壁は石積みと漆喰でかためる。 2.夏の朝の空を一面に広げる。 3.イタリアかさ松を植える。   日差しを十分に注ぎ、屋根を覆うまでに育てる。 4.家に窓をひとつ開け、そこから眺める。   静けさの中に小さな音を聴く。 5.遠くにも家々を並べる。   松葉を踏み、散歩をしたくなったら、できあがり。

風景のレシピ #18 “家具のための野外劇場”| nakaban

風景のレシピ #18 “家具のための野外劇場” 1.幾層もの地層を重ね、台地をつくる。チョコレート・ケーキのように表面をならす。 2.台地の上面にアプローチする階段を作る。 3.植物であたりを覆う。台地の表土には大量の樹木を植え、大きく育てる。 4.出来上がった空間に木の家具を配置する。 5.家具に片肘をつきながら、過ぎていく日々を眺める。

風景のレシピ #17 “地図にない場所”| nakaban

風景のレシピ #17 “地図にない場所“ 1.何年も忘れ去られているかのような、小さな路地裏を作る。   地面は石畳にする。石はこの都市を流れる川辺で集めたもの。   石を敷き詰め終えたのち、自分でもよく踏み歩いておく。   地中にはモグラ穴や古い時代の水道管、電話回線なども埋まっている。 2.街灯を立てる。街灯の足下にも植栽を敷く。 3.空間をとじるように家をならべる。   そこかしこに植物を繁らせる。 4.電話ボックスを置き、アイスグリーンの光で内側を満たす。