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星の味 │ 徳井いつこ

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日常のふとした隙間、 ほっとため息をつくとき、 眠る前のぼんやりするひととき。 ひと粒、ふた粒、 コンペイトウみたいにいただく。 それは、星の味。 惑星的な視座、 宇宙感覚を…
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#童話

星の味 ☆9 “永遠に幼きもの”|徳井いつこ

  やみにきらめくおまえの光、   どこからくるのか、わたしは知らない。   ちかいとも見え、とおいとも見える、   おまえの名をわたしは知らない。   たとえおまえがなんであれ、   ひかれ、ひかれ、小さな星よ!  ミヒャエル・エンデの物語『モモ』の冒頭にそっと添えられている詩には、「アイルランドの子どもの歌より」と書かれている。  世界じゅうで、日本でも長く歌い継がれている「きらきら星」に似ているような……?  時間泥棒に盗まれた時間を、人間に取り返してくれるモモ。あの

星の味 ☆6 “次元の旅人”|徳井いつこ

 友人は、子どものころ、竜を見たことがあるという。  山形の城下町。よく晴れた日の午後、川原の橋近くで芋煮会が開かれていた。8歳の友人は、大人や子どもたちからはずれ、ひとりぶらぶらと川のほうへ歩いていった。  背の高いススキやチガヤをかき分けて行くと、川辺に出る。小石を拾ったり川面を眺めたりしているうち、霧が流れはじめた。あっという間に、あたりいちめん見覚えのない真っ白な世界になっていた。  ふと見ると、水面近い霧のなかに巨きな何かが蠢いている。友人の目はぴたりと貼りついたま

星の味 ☆5 “偶然の祝福”|徳井いつこ

 夕暮れどき、散歩をしていると、薪の香りが流れてくる。  どこかの家で薪ストーブを焚いているのだ。  どの家かな……ときょろきょろする。木立を透かして、うっすらと煙が流れだしている煙突を見つける。  森のなかに点在する家々に、さまざまな形、大きさの煙突があり、屋根から室内に伸びて、薪ストーブにつながっている。  どのストーブの中でも、ちらちら火が燃えているだろう。  上には、蓋をずらしたシチューの鍋がことこと音をたてているかもしれない。そばには火の粉よけのラグが敷かれ、猫がま