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星の味 │ 徳井いつこ

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日常のふとした隙間、 ほっとため息をつくとき、 眠る前のぼんやりするひととき。 ひと粒、ふた粒、 コンペイトウみたいにいただく。 それは、星の味。 惑星的な視座、 宇宙感覚を…
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#時間

星の味 ☆7 “夕暮れをめぐる”|徳井いつこ

 本に没頭しているうち、すっかり暗くなってしまった。  明かりをつけようとして、思いなおす。  外の世界が青く染まりはじめ、部屋に薄闇がしのび込んでくる夕暮れどきは、いつもためらわれる。  読み続けるには、いささか暗いが……明かりを点けてしまうと、何かを閉めだしてしまう気がする。  ハンス・カロッサの『指導と信従』を読んでいた。  風変わりな題のこの本をときどき開きたくなるのは、リルケとの最初の出会いが書かれているからだった。  カロッサが「嘆きの調子を含んでいる頌歌」と呼

星の味 ☆4 “奇妙な惑星の奇妙な人々”|徳井いつこ

 シンボルスカの名を初めて聞いたのは、30年前のことだ。  当時ロサンゼルスにいた私は、こつこつ石の本を書いていた。 「どうして石の本?」と無邪気に聞かれるなかで、アルメニア系アメリカ人のその友達だけは、いたずらっぽい顔で「ヴィスワヴァ・シンボルスカを知ってる?」と尋ねたのだ。  知らない、と私は言った。  舌を噛みそうだね、その名前? 「ポーランドの詩人だよ」  と友人は笑った。 「石の詩を書いてる」  私たちはふたりとも赤ん坊を育てている最中だったが、彼女は夜中にキッチン