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星の味 │ 徳井いつこ

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日常のふとした隙間、 ほっとため息をつくとき、 眠る前のぼんやりするひととき。 ひと粒、ふた粒、 コンペイトウみたいにいただく。 それは、星の味。 惑星的な視座、 宇宙感覚を…
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#詩人

星の味 ☆6 “次元の旅人”|徳井いつこ

 友人は、子どものころ、竜を見たことがあるという。  山形の城下町。よく晴れた日の午後、川原の橋近くで芋煮会が開かれていた。8歳の友人は、大人や子どもたちからはずれ、ひとりぶらぶらと川のほうへ歩いていった。  背の高いススキやチガヤをかき分けて行くと、川辺に出る。小石を拾ったり川面を眺めたりしているうち、霧が流れはじめた。あっという間に、あたりいちめん見覚えのない真っ白な世界になっていた。  ふと見ると、水面近い霧のなかに巨きな何かが蠢いている。友人の目はぴたりと貼りついたま

星の味 ☆1 ”誕生日の気分”|徳井いつこ

 年があらたまると、一つ歳をとる。  お正月生まれの私は、わかりやすい。  子どものころはケーキ屋もレストランも閉まっていた。ラジオは春の海ばかり流している。焦った私は親に尋ねた。「今日は何の日でしょう?」  全国民がお祝いしているので、一個人の誕生日は忘れ去られる運命にある。なにしろ新年なのだ。  家の中も、そして街の風景も奇妙にさっぱりしていた。通りはきれいに片づけられ、人一人、犬一匹歩いていない。  世界を覆っている「日常」という蓋が取り外され、どこまでも続くからっぽの