回顧録①

「舟」北海道支部北舟句会に、無類の酒好き、自称「天才」がいた。ふと、過去の句会の記録を見ていた時にその人のことを思い出した。僕は、その人の笑顔と、酔いすぎてグロッキーになっている顔をはっきりと覚えている。

矢萩ピエール(本名:肇)さん。2012年に亡くなった、僕の“大先輩”だ。父親のことを「八鍬ちゃん」と呼び、主に僕のことは「ジュニア」と言って可愛がってくれた。今、実家に帰っていて、父親が北舟句会の記録を持ってきてくれた時に、ピエールさんの句だけで行われた追悼句会(通称:ピエール句会)の記録を見た。回顧録ついでに、今日はピエールさんの“代表句”を読んでいきたいと思う。

無花果のぷちぷちぷちと甘い罠

2011年10月29日の句会で発表された句である。彼は自家製ドライフルーツを売る仕事をしていて、僕も彼の店の無花果を食べたことがあった。そして、その時に食べた無花果こそ僕の無花果デビューだったのを覚えている。感じたことのない甘さと「ぷちぷちぷち」とした独特な食感。こんなに美味しい果物があるんだ・・・!と子どもながらに感動した記憶がある。しかし、「罠」と描写されると、どことなく大人っぽさ、色っぽさが生まれてくる。果物の瑞々しさと相まってそれはさらに加速していくだろう。子どもの頃はなかなかその「艶」に気付けなかったが、今読むと、どことなく怪しい句だなぁと思える。

今年僕は20歳になる。北舟句会のメンバーみんなと、成人したら一緒に飲もう、という話を昔からされていたが、特に父と親しくしていたピエールさんと飲めないというのが非常に辛いことだと今更になって強く感じた。来年になってしまうが、僕が20歳になったあとにでも、ピエールさんに捧げる句会をぜひ、「北舟句会」で開いて欲しいと強く感じつつ、句会記録を仕舞った。

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