魈のモチーフ考察[原神]
今回は魈のモチーフ考察をしました。
公式が魈のモチーフを一部紹介してくれているので、そちらを参考にしつつ、さらに深めていく形になっています。
🔗 開発者共研計画—キャラクター編01
魈は原神の開発部が気合を入れて作ったキャラなので、物凄く長い考察となります。ご了承くださいm(_ _)m
名前
魈という名前は、中国の伝説に出てくる、山の猿の精「山魈」から来ています。
この山魈は、五通神ともされており、五通神は五顕神という道教の神様とも結び付けられています。(混同されることが多い)
道教の神・華光天王の伝説では、華光天王は三眼(三つの目を持つ)であり、五顕神と同一の存在だとされます。
魈を初めとする仙人の正式名称は三眼五顕仙人。
つまり仙人や魈は、道教という中国の信仰を下地として作られたキャラである訳です。
(華光天王は仏教の要素も強い神で、魈もまた仏教要素を兼ね備えています。)
魈の三眼要素に関する、原神公式なりの解釈がサイトに載っているのでご紹介します
中国古来の伝説および明清の神魔小説において、「華光天王」は、またの名を「馬霊官」とも呼ばれています。
有名な守護神として『南遊記』(西遊記と同じく孫悟空関連の物語)のストーリーに出てきます。
孫悟空と拳を交わしたことがある者です。
華光天王の要素も受け継いだのが魈である…というのが、公式の説明です。
デザイン
原神のデザインチームが、結構詳しく魈のデザインについて触れてくれているので、そちらを参考にしつつ魈のデザインについて考えます。
デザインチームの説明によれば、魈には「実年齢や仙人であることを考慮し、玉石を用いた装飾品を身に着けさせた」そうです。
一般的に中国における「玉」の多くは翡翠を表します。翡翠に関しては鍾離、申鶴、白朮など他の璃月キャラのモチーフ考察でもお話しました。
翡翠は聖なる石として、中国にて古代から最も愛された玉石の内の一つです。
また、袖が長いのは中国古代の服の特徴で、そうした服が仙人の服として描かれるようになり、その仙人の服をモチーフとして魈に取り入れたようです。
また、魈はデザインチームいわく、手首に薄い鎧を付けており、他にも香炉、降魔杵というような「法具」を装飾品としてつけています。
仏教の中でも密教でよく法具とされる香炉と、金剛降魔杵から分かるように、魈は仏教の要素も結構強いキャラとなっています。
公式も「降魔杵や小さな香炉といった「法具」」と記載しているので、法具(仏事に使う道具)で間違い無いです。🔗中国の百度百科「降魔杵」の説明
金剛降魔杵は主に仏教(特に密教)において、妖魔を倒す武器です。魈の降魔杵は独鈷杵という槍状のものに1番近い形をしています。
(隣の三鈷杵は、ボス戦で雷電将軍が召喚します。🔗雷電将軍のモチーフ考察)
※よく封神演義の降魔杵から道教の武器だと思われる方がいるようですが、封神演義がそもそも仏教の降魔杵から影響を受けています。
魈は腰に帯をつけています。デザインチームいわく、帯はたなびく雲の紋様だとのこと。道教の仙人をイメージしてるそうです。
確かに仙人は雲の上に乗りがちですし…雲がかかるような山奥にいるイメージもあります。
ズボンや帯を見ていると、やっぱり冒頭に魈のモチーフとして紹介した、道教の華光天王の服装を少し参考にしていそうな気がします。
腕の刺青らしきものは、魈の本来の姿(鳥)の模様だそうです。金翼鵬王の模様ということですかね。
腰元の仮面は、中国の儺面(なめん)をモチーフとしているそうです。
疫鬼(妖魔)を追い払う中国の儀式を「儺」といい、そこで使う面を儺面といいます。
古代中国から続く儀式です。
日本でもこの儀式はあり、日本では追儺面と呼びます。
後述しますが、天賦にも関係するのがこの「儺」です。
天賦
先程の「儺」の要素を取り入れつつ、全体的に仏教を意識した天賦となっています。
スキル・風輪両立
風輪は、須弥山(しゅみせん)の下にある、世界を支えているという4つの円輪の内の1つです。
この須弥(シュミ)は元々はインドの言葉でSumeruと言います。
「スメール」の名前のモチーフと考えられる、仏教において世界の中心にある山のことです。
四輪には空輪・風輪・水輪・金輪があります。
日本でも「金輪際」(こんりんざい)という言葉が時々使われますが、元々、金輪際は金輪の際(きわ)を意味する仏教用語なんですよ。
元素爆発・靖妖儺舞
先述した通り、古代中国から続く疫鬼(妖魔)を追い払う中国の儀式を「儺」といいます。
靖の字には安らかにする、鎮(しず)める的な意味があるので、儺舞によって妖魔を安らかにする(倒す)という意味になります。
実際に儺舞と呼ばれる舞があります。
命の星座(金翼鵬王座)
元々は金翅鵬王座として発表されていたのですが、翼という字に変更になりました。
十二夜叉大将の伝説に、金翅鵬王鳥の話があります。伝説によれば、金翅鳥は毒龍を毎日喰らい続け、最後は毒に耐え切れず琉璃の心を残して亡くなりました。
なんか切ない存在が命の星座の名前になってますね…。毒を喰らっているあたり、まさに魈そのもの。
命の星座(凸効果)
仏教には劫という考えがあります。
劫と聞くと罪とか罰のような印象を抱くかもしれませんが、元々は万物が生成され消滅するまでの「時間や期間」を表す言葉です。
一大劫と呼ばれるものに、
世界が生成される成劫(じょうこう)、
世界が存続する住劫(じゅうこう)、
世界が破壊される壊劫(えこう)、
世界が存在しない空劫(くうこう)
の4つの期間があり、これを無限に繰り返します。
魈は面白いことに1凸と2凸の名前に壊劫、空劫が入っています。
つまり、世界の破壊から始まり、5凸目で再び世界が形成される成劫の段階に戻ってくるようです。
1凸 壊劫・三界破壊
仏教用語です。
欲界・色界・無色界の三つの世界のことを三界といいます。悟りにいたるまでの心の世界のことです。
私たち衆生(人々)は生きている限り、三界(心の世界)において生死を繰り返し、輪廻します。
その三界に壊劫の期間がおとずれ、「三災」と呼ばれる「災害」が起き、世界は破壊されます。
恐らく原神においては、魔神戦争の時代を意味しているような気がします。
誰がその世界を破壊したかは3凸から推測できます。
2凸 空劫・虚空開敷の変
先述した通り、世界が存在しない期間を空劫と呼びます。虚空も、仏教において何も存在しない空間のことです。
開敷とは、花開くことを意味する仏教用語です。
中国語版では「虚空华开敷变」=虚空華開敷変
となっています。
虚空華は日本では空華と呼ばれることが多いです。仏教用語です。
三界を生きている、煩悩 にとらわれた人が、本来実在しないものをあると思い込んで、とらわれてしまうことを意味します。
病んだ目で虚空を見ると、花があるように見えることから派生した言葉です。
悟りから遠ざかったあまり良い意味の言葉ではありません。
まとめると、三界が破壊されて何も無い虚空の世界になった空劫の期間に、虚空から虚空華が開いた(開花した)という意味になります。1凸2凸で悟りから遠ざかっています。
3凸 降魔・憤怒の相
この憤怒には2重のモチーフが存在すると思います。
①降魔は妖魔を退治するという意味の仏教用語です。憤怒の相の1つ目のモチーフは、元素爆発でつける儺面のことでしょう。
1凸で三界を破壊されたので、魈のような降魔を行う存在が、憤怒の相(=顔)で妖魔退治(降魔)を始めたという意味だと思われます。
②2つ目のモチーフは忿怒尊(ふんぬそん)と呼ばれる、密教(仏教)の神仏たちのことだと思います。
妖魔を倒し、仏教の教えに従わない者たちを憤怒の相(顔)で教えに導きます。
仏教において妖魔(悪魔)をマーラといい、このマーラは、釈迦が悟りに至るのを妨げようとするのだと言われています。
原神においては鍾離のライバルだった魔神たちでしょうか。
マーラは死やあらゆるものの破壊を司る存在です。
恐らく1凸2凸で世界を破壊して人々を悟りから遠ざける存在(妖魔)を、
3凸で魈もしくはそのモチーフとなった存在が倒しに行き、人々を再び悟りへ導く…という筋書きのように思えます。
4凸 神通・諸苦滅尽
神通(又は神通力)は、仏や菩薩が持っている力のことです。
日本の仏教の解釈になってしまいますが、法華経・譬諭品第三にこんな記載があります。
『諸苦を滅尽するを 第三の諦と名づく 滅諦の為の故に 道を修行す』
つまり、この世の様々な苦しみ(諸苦)は心のあり方によるもので、心のあり方を変えることによって、苦しみは消滅するのだという意味になります。
4凸の名前は、
魈が神通力のようなものによって妖魔を退治し、人々を苦しみから解放する…という意味だけではなく、
仏教的に悟りに至るために、苦しみをどう消滅させるかについて表していると考えられます。
5凸 成劫・無明増長
輪廻によって再び世界が生成される成劫の時期がやってきます。
『涅槃経』の一節に、
「信有りて解無げれば、無明(迷い)を増長し、解有りて信無ければ、邪見を増長す。」
という言葉があります。信仰と理解の両方が備わった上で修行して、初めて悟りへと至るという戒めです。
6凸 降魔・護法夜叉
妖魔を倒す護法夜叉という意味の凸名です。
護法夜叉とは何か。
仏教の護法善神の一尊である夜叉…これを原神で護法夜叉と略しているようです。
護法善神とは仏教(仏法・仏教徒)を保護する神々のことです。
夜叉は護法の鬼神である一方で、森林の精でもあります。鬼神は鬼の面である儺面、森林の精は山魈とも繋がりますね。
まとめ
1凸2凸で妖魔や魔神が蔓延る世界となり、3凸で魈が立ち上がり、それ以降で世界を浄化するという形となっています。
モチーフに注目すると、
1凸2凸で仏教において悟りに続く世界を妖魔が破壊し、
3凸以降から、妖魔退治が始まりつつ世界の再形成、仏教の悟りに人々を導いていく過程を表していると思います。
海灯祭
海灯祭のモチーフ
よく海灯祭は春節を表すと言われていますが、実際はもう少し広い中国のお祝い期間をモチーフとしているようです。
海灯祭の空に浮べる霄灯は、元々中国南部の文化だった「天灯」(灯りを空に浮べる)を意識しているように見えます。
元宵節(旧正月の締めくくり)には、灯篭を街いっぱいに飾り付けしたり、天灯を空に浮かべる風習がありました。
海灯祭は大晦日~春節~元宵節の期間の要素を多く含んでいる…ということです。
元宵節には道教由来の伝説があります。
この伝説が元となり、厄災を払う祭となったそうです。
(元宵節以外の要素もあるので、海灯祭のモチーフは1つではないと思います。)
海灯祭と魈
霄Xiāo灯は、魈Xiāoの意味を含ませた言葉遊びなのではないかと思われます。
つまり、魈の灯を暗示していると考えることもできます。
Ver1.3で海灯祭と共に実装された魈のガチャ名も「灯宴の招き」となっています。
灯宴(海灯祭)が招くものとは何なのか。
2021年海灯祭
魈は数百年前に荻花洲の戦場で業障に飲まれかけ、自我を失いかけた事があります。
しかし、謎の笛の音(ウェンティ)が魈を苦痛から解放し、一時的に魈は正気を取り戻しました。
助けてくれたのが誰なのか、魈は気になりましたが、深く追及することをやめました。何故なら、魈には漠然とした心当たりがあったからです。
その当時を回想した魈のストーリーの文にこんな記載があります。
これはかつて岩神に助けられた…今回も恐らく、7神の中の風神(ウェンティ)だろうという意味だと思われます。
数百年前に1度、ウェンティに救われているということになります。
そして再び2021年も恐らくウェンティに救われています。
魈が最初に救われた恐らく数百年前の戦いは荻花洲が戦場です。
この文で魈が戦っているのは孤雲閣です。
上の文の海灯祭は投稿された時期的にも、2021年海灯祭の期間のことだと思います。
(魈の実装も海灯祭も2021年のこの投稿がされた時期です)
もしくは2021年海灯祭でなくても、少なくとも一回目の救済とは別のタイミングだとわかります。
映像の中で「荻花洲の笛吹き」としてウェンティがほんの少し魈と共に出てくるので、この文の荻花洲で笛を吹いている人物も恐らくウェンティです。
明確には書かれていませんが、ここで少なくとも2回目のウェンティの救済にあっているような伏線があります。
この古き友は恐らく普通にウェンティのこと。
(もしくは魈のかつての仲間たちのことかもしれません。)
人を喰らう怪物が仙人によって退治されたため、人々は仙人を模倣し、英雄を記念して妖魔を払う儀式を行うようになりました。
それが徐々に祝祭へと発展したのが海灯祭です。
先述しましたが霄灯は、公式の見解では過去に魈と共に戦った仲間を讃えるため人々が作るもので、同時に「霄灯」を飛ばすと言う事は、歴史上、璃月を守った英雄の魂が俗世に戻り、再会できる事を祈るという意味があります。
(ただ鍾離いわく、この英雄の魂は仙人に限らず、戦争で犠牲になった人々も含みます。)
海灯祭はおそらく、魈が亡くなった友の魂と再会する祭としてデザインされているように思えます。他の仙人も同様なのですが、今までの流れでは主に魈がメインとして持ち上げられています。
魈のガチャ名は、灯宴(=海灯祭)の招き、つまり友の魂との再会…みたいなニュアンスがあるようにとれます。
美しさにただ見とれてるんじゃなくて、過去の仲間を思ってるんですね。(多分)
2023年海灯祭
2021年が魈メインだったのに対し、
2022年は魈メインという感じではありませんでした。
2023年はウェンティが魈を癒すために再び璃月を訪れています(多分)
最初の実装とは別に、海灯祭に合わせて魈メインの動画が特例で上げられたのは、海灯祭と魈が切っても切れない関係性だからだと思われます。
海灯祭の夜は特に魔神の残滓や妖魔が暴れ出すようで、魈は海灯祭を楽しめる状態ではありません。
かなり業障で苦しんで目を閉じた(倒れた?)ところ、2021年同様、恐らく寝ている間にウェンティの笛の音に助けられます。
魈が正気を取り戻して目を開くと、笛は持っていませんがウェンティが魈を見ています。
業障は自力でどうにかなるものではないので、恐らくウェンティが何らかの力(多分笛?)でまた魈を癒し目覚めさせたのだと思います。
その後、魈はウェンティのお陰で一時的に苦しみから解放され、霄灯を旅人と眺めることが出来ました。
魈は数百年前と、2回の海灯祭で合わせて最低3回、なんならおそらく描かれていないだけで、海灯祭の時期に妖魔が暴れて魈が苦しむたびに、何度もウェンティに救われているのだと思います。
余談・華光の林
璃月には中国の張家界をモデルとした場所「華光の林」があります。この華光の林は仙人たちがいるエリアです。
張家界の地形は仙人になった気分を味わえると、現地の案内板に書かれているそうです。
璃月港が人間のテリトリーであるのに対して、華光の林など、人があまりいない地域は仙人たちのテリトリーとなります。
華光の林は、魈のモチーフの一つである華光天王を意識しているのかもしれません。
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