【ショートショート】ロボット人間
「ジェイ、ご飯の時間ですよ。」
「…。」
「ジェイ、学校に間に合いませんよ。」
「…。」
「ジェイ、聞こえているの?」
「わかってるよ、うるさいな!」
ここのところ、母が鬱陶しい。いつもいつも、同じことばかり俺に言ってくる。頭がへんになりそうだ。俺は痺れを切らした。
「いつも、そんなにうるさく言われなくてもわかってるんだから、黙ってくれ!」
流石に言いすぎたか、と思った。母親は、悲しいというよりは、むしろ困った表情をした。決まりが悪くなって、家を出た。
俺が学校から帰ってくると、父が帰っていた。両親はリビングで、何かの説明書を仕切に読んで話していた。また余計な家電でも買ったのだろう。
父は俺に気づいた。少し決まりの悪そうな顔をした後に、
「ジェイ、最近学校は楽しいか?」
と言った。これも何度も聞かれた。楽しいというか、別に変わったことはなく普通なのだから、わざわざ聞かないでほしい。
「普通。」
「そうか…。」
父親もまた困った顔をして、机に戻った。
いけない、親のどんな行動も、なぜか鬱陶しく感じてしまう。これが思春期、反抗期というやつだろうか。そういえば、最近顔にニキビがよくできる。全く、面倒な時期だ。
その日の夜。俺がゲームをしていると、部屋に両親が入ってきた。鬱陶しい。
「なんだ。勝手に入ってくるなよ!」
両親はまた困った顔をした。
「ジェイ、あなた最近おかしいわ。どうしてしまったの…。」
「そうだぞ。父さんや母さんに対して、ちょっと冷たすぎるんじゃないか。」
そんなことは分かっていた。分かっているがどうしようもないのだ。なぜか、鬱陶しく感じるのだ。
「うるさいな。そんなことだったら、後にしてよ。今忙しいんだ。」
両親は目を合わせ、困った顔をして部屋を出た。俺は、なぜかまた両親のその態度が気に食わなかった。追いかけて言った。
「なんとか言えよ!本当に、鬱陶しい。」
「お前、いい加減にしろっ。自分を何様だと思っているんだ。」
父が激怒したので、驚いた。こんな父はみたことがなかった。咄嗟に、手が出てしまっていた。父は、壊れてしまった。
俺はその日、長い夢をみた。どんな夢だったかは忘れてしまったが、なんだかすごく、気持ちの良い夢だった。
「ジェイ、ご飯の時間ですよ。」
「うん、今行くよ。」
「お母さん、おいしいね。」
「良かったわ。」
「母さんは料理がうまいなあ。」
「じゃあ、会社に行ってくるよ。」
「行ってらっしゃい。」
「いってらっしゃい。」
本当に、気持ちのいい朝だ。今日は何もかもうまくいきそうだ。俺が生きていられるのは両親のおかげだ。感謝しなければいけない。洗面台で歯を磨いて顔を洗った。顔からはニキビが消えていた。爽やかな気分だ。
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