【ショートショート】カフェ
昨日彼から電話があって、何の用とも言わず、とあるカフェで待ち合わせたい旨だけを伝えられた。
私が到着した時には、もう彼はコーヒーを飲んでいた。
「ごめん、待たせちゃったね。」
「いや、待ってないよ。」
「それで、話って何かな?」
「話?僕は話があるなんて言ってないよ。君に、ここに来て欲しいと頼んだだけだ。」
… ん?妙だ。話したいことがないのに人をカフェに呼ぶことがあるだろうか。
「えっと、それはどういうことかな?何か用があって私をここに呼んだのよね?」
「ああ、それは間違いない。」
はて?この人は何を言っているんだろうか。話したいことはないのに、用があるというのは、どういうわけだろう。
「そっか…。よくわからないけど、じゃあ用って何かな。」
「僕を殺して欲しいんだ。」
なんだ、それだけのことか。それなら合点がいった。
「なんだ、そういうことか。確かに、それなら話は必要ないね。わかったよ、今でいいんだよね?」
私は、机の上に置いてある容器からさじを使って粉末をすくい、彼の飲んでいたコーヒーカップに入れた。
「もう、溶けたよ。どうぞ、飲んで。」
「ありがとう。」
私は同時にタクシーを呼んだ。
彼は粉末が溶けたコーヒーを飲むと、1分と経たずに息をしなくなった。最近はすごく効き目がいい粉末が流行って、いい時代になった。
まもなくタクシーは到着した。
「すみません、これを最寄りまで。お金はこの財布からとってくださいね。」
私は運転手にそう伝え、そのまま店内に戻った。先ほどまで彼がいた椅子を手の甲で撫でた。彼の温もりがまだわずかに残っていた。私はすぐに会計を済ませ、店を出た。今日は夕方から人と会う用事があるのだ。
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