【ショートショート】終わりなき戦い

 その国はA国といった。それほど国民の数は多くなかったが、国民たちはお互いに協力し合い、平和な暮らしを築いていた。中には貿易をするものなどもいて、経済的にもある程度発展していた。A国の国民は、皆が幸せだった。

 そんなある日、恐ろしいニュースがA国中に流れた。なんと、海を挟んだ隣国のB国が、A国にミサイルを打つと予告してきたというのだ。これまでの平和な暮らしが壊れるかもしれないという状況に陥り、A国の国民は慌てた。国王は、これはただの脅しで本当にミサイルが飛んでくるわけではないから慌てるな、嘘の予告を真に受けて、国内が不安定になることの方が皆にとって悪いことだ、と国中に伝えた。これで国民は一度は落ち着いた。国王は強い信頼を得ていたのだ。
 しかし、国王の予想は外れた。B国は予告通りに、A国に向けてミサイルを飛ばした。ミサイルが本国まで飛んでくることはなく、危機一髪、直前の海に着弾したが、国民の不安は一気に強くなった。国王は嘘をついた、と国民の何人かが騒ぎ始めると、その騒ぎは一気に広がった。
 たくさんの主張があったが、大きくは、B国に反撃すべきだ、という意見と、このまま現状を維持すべきだ、という二つの派閥に分かれた。反撃派の理屈は、このまま何もしなければまたB国はミサイルを打ってくるに違いない、先に反撃して、戦力を喪失させるべきだ、というものだった。一方で維持派は、反撃しても倒せるとは限らない、下手に刺激するとかえって怒りを煽るから、何もすべきではない、と主張した。この国は、まもなく内戦状態に突入した。

 その頃、B国内でも、論争が起きていた。一度はミサイルを打ったB国であったが、それに反対した国民が意外にも多かったのだ。彼らは、A国とは貿易でも深い関わりがあるので仲良くすべきだ、攻撃するなんて考えられない、と主張していた。ミサイルの発射を決定したB国の国王は、A国は経済的に発展しつつあり、このまま放っておくといずれその力はB国を越えるだろうから、今のうちに芽を摘んでおかなければならない、と考えていた。
 B国内で起きた論争は、すぐに武力戦争に発展した。全体における数が圧倒的に多かったミサイル発射反対派は、国王を殺し、覇権を奪った。そしてA国に、我々はもうミサイルを打たない、大変申し訳なかった、ということを伝えるため、遣いを送った。

 一方、A国でも、争いの決着はついていた。なんと、A国の覇権を握ることになったのは反撃派であった。A国は、B国からの遣いがくるよりも先に、反撃の準備を進めた。反撃派の多くは若かったから、仕事もテキパキとこなした。そして、革命からわずか一日後、A国は反撃のミサイルをB国に向けて発射した。B国の遣いはまだ到着していなかった。

 しかし、そのミサイルがB国に届くことはなく、直前の海に落ちた。ただ、必然的にB国内では不安が蔓延した。遣いは殺されたのだとう噂も流れた。そしてその時、少なからずこう思う人がいた。

「やはり、A国に反撃のミサイルを打った方が…」

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