(ノート)中国経済をどう見るか

中国経済の輸出依存から脱却

 中国経済の成長率鈍化は明らかである。10%以上の高度成長は終わり、現在は6%前後となった。人口が減少することもあり、高成長しなくてもよくなっている。その中で様々な課題が出てきた。

 まず確認しておきたいのは、中国の経済成長は改革開放で外国資本を受け入れて、労働集約型の外国企業に労働者(安価な労働力)を提供することで発展するという成長戦略をとって実現した。この外国からの企業進出(直接投資)は、一時、残高の増加が伸び悩んだ時期があるが、去年は再び大きく増加した(グラフ参照)。今後、ペースは衰えるが、中国への投資の利潤率は高く、まだ増えていくだろう。

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 中国自身も貿易で外貨収入を得て、経常収支が黒字になり、はじめは米国債を中心に証券投資を行なっていたが、さらに対外直接投資を始め、残高がかなり増えてきている。ただし、外国資本が中国に投資している額の方がまだ多い。つまり、中国経済は、外国との関係においては、外国資本から搾取されている立場にある、ということになる。
 日本と中国の関係を見ても、日本からの進出資本の残高は14兆円、その直接投資の収益がおおよそ年間2兆円となる。日本資本は中国を毎年2兆円ずつ搾取しているということになる。ただし、習近平政権になってから、とくに中小企業の中で撤退する企業が増えてきているのも現実である。
 トランプ政権になって米中の貿易摩擦が高まった。バイデン政権下でも鎮静化の方向は見えていない。とくにハイテク分野で、アメリカは中国への技術の流出を恐れているし、逆に中国のハイテク製品によってアメリカ市場が席巻されることも恐れている。しかし、中国経済全体にとってみれば、米中貿易摩擦は需要の問題としては大きくはない。中国は先進国への軽工業品輸出を成長のテコにするという成長モデルからすでに脱皮しており、いかに内需を高めるか、とくに個人消費、労働者の消費を高めていくのか、好循環を図るのか、が課題になっている。輸出の大幅減少は好ましくないだろうが、経済成長のポイントは内需の好循環を作れるかにある。

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中国の成長戦略

 中国の現在の成長戦略は、習近平政権になって2015年、「中国製造2025」が策定された。「重点10産業」(次世代情報技術、工作機械・ロボット、航空・宇宙設備、海洋工程設備・ハイテク船舶、先進軌道交通設備、省エネ・新エネ自動車、電力設備、農業設備新素材、 バイオ医薬・高性能医療機器)を決めて、これらの分野でイノベーションをやっていく、品質を良くしていくことでこれからの中国の経済を引っ張っていこうとしている。
 指摘しておきたいことは、従来型、重厚長大の国有産業はこの中にはいっていないことだ。入っていても電力、それからロボット・航空宇宙は国が担っているが、それ以外は民間企業に期待している。「国有企業の優勢」は、2010年ごろに終わっており、国有企業の民間企業に対する優位性は残っていない。現在は、国有企業の負債問題をどうするのかが大きなk大となっており、とりあえず銀行からの借入金を、長期債券の発行に切り替えて問題を先延ばししている。

 経済のエンジンは民間企業に移らざるを得ない。民間のオーナー系の企業は大きく成長してきた。中国のITを支えているのはアリババなど民間資本のIT企業である。これを共産党政府としてどう制御していくのか、が課題になってきた。政府は、これらインターネット企業と製造業の結合を重視していて、イノベーション能力の向上と国有製造業企業の展開を図ろうとしている。

小康社会の実現

 中国は2020年までに「小康社会」を実現することを目標にしてきた。脱貧困ということでは、かなり自信をもって達成したとしている。絶対的な貧困層というのはいなくなったのだろうと推測されるが、貧しくて都会に出て働かざるをえない、下請け的な仕事をしているという人は多く、完全な脱貧困とまでは言えないだろう。
 1人当たり名目G D Pは、日本円にして115万円(2020年)に増加した。Gその半分程度が賃金、つまり5、60万円という平均賃金だ。消費者の生活必需品物価は日本との比較では3分の1ぐらいと見られており、日本に当てはめると平均年収150万円ぐらいとなる。しかし、所得格差は非常に大きいので、高額所得者もいれば、かなりの貧困層もいる、というのが現状だ。 
 小康社会のもう一つの目標として、社会保障体制の確立が10年くらい前から課題とされてきた。年金については、統一的な基礎年金を中心に据えた年金制度に向けて改革が進行中である。医療については、国民皆保険がほぼ達成したとされている。

 反腐敗闘争と言われるものも、数年前から、とくに公務員の接待問題ということで出ていて、これはかなり厳格に守られるようになったようだ。ただ、贈り物文化はなくなっていない、というのが実体のようである。

企業の統制問題

 中国共産党は、民間企業、とくに外資系企業における共産党組織の確立をが課題としてきた。これはかなり進んでいる。日本からの合弁企業でも、「企業長に話をつけるのではなくて、党書記に話をつける。なぜならこの方が話が早いから」となっているようだ。
 
 新興オーナー系大企業資本家への牽制では、巨万の富を築いたジャック・マーなど、今の段階では、独占、という観点からけん制している。一時、ジャック・マーが姿を消して話題となったが、オーナー企業自体をつぶすとか国有化する、いうことではなく、けん制することでコントロールしようとしているようだ。

「新常態」

 ゆくゆくの「新常態」のイメージは、20年後ぐらいで経済成長3%くらいというところではないか。人口が恒常的に減っている中での3%なので、一人当たりの生活は4%程度は向上させていくことができる。もちろんこれでは一人当たりのGDPで現在の先進国を抜いていくということにはならないが、中国政府や経済学者たちはそれが現実的だ、と考えているようだ。そして社会保障体制をきちんと整備して、市民が安心して生活できる社会をめざすことを優先している。
 今後の社会制度の問題としては、土地の所有問題と戸籍問題が大きい。土地を完全に私有化すべきか、ということについては、中国の中でも、論議があり、市場関係を全面的に導入するというからには私有化が進むことは進歩だ、とする意見もある一方、土地が国有になっているということが、社会主義として必ず守らなければいけない条件であり、その前提の上で土地制度改革をしましょう、という意見もある。
 現在は、全ての土地は形式的に国有だが、国(省)から貸与された使用権(利用可能年数は土地の性格による)が売買可能な資産となっている。居住用だと使用権は70年、事業用は50年あるいはもっと短い期限が種類別に設定されている。使用権は相続はできないが、実際には何らかの方法で子供などに使用権が移転されて利用期限がきたときに、使用権の更新が必要になる。これまで各省によって更新の制度が違い、高額の更新料を課す省もあれば、そうでもない省もあるということだった。これをほぼゼロに近い形で緩和する措置が取られてきた。実質的に費用が掛からずに更新できるのであれば、賃貸料は払うものの永続的に土地を所有していることとあまり変わらない。そういう事情も不動産価格の上昇につながっているのではないだろうかこの不動産バブルが中国経済としては大きなリスクである。
 もう一つの制度問題は、戸籍問題は、なかなか解決していない。現在、常住人口での都市化率は 60.6%、戸籍人口での都市化率は 44.4%です。つまり、この差16.2%が農民戸籍のまま都市に住んでいる、働いている人たちということになる。これは、年金制度統一の障害にもなっている。
 


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