月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう! 第11回 日本の金融(2)

行き詰まった金融政策

 第2次安倍政権によって任命された黒田日銀総裁は、2%の消費者物価上昇を目標にした超金融緩和政策を推し進めました。まず、マネタリーベースをふんだんに供給することで金融政策面から景気を改善しようとしました。マネタリーベースとは、市中の現金流通量と市中銀行の日銀への預金の合計額を指します。これは日本銀行が直接コントロールすることができる量的な指標です。
経済成長率が高く、設備投資資金などの資金需要が強い時期には、このマネタリーベースを核として、市中銀行がその数倍の信用供与による資金供給を行う構図がありました。これを信用乗数効果と言います。そこで、マネタリーベースを増やせば市中銀行が貸出に積極的になり、市中に資金が回ることで景気浮揚効果と物価上昇効果をもたらすという論理のもとにマネタリーベース増大が図られたのですが、すでに人口減少の下で設備過剰感が解消していない状況では、信用乗数効果はまったく発揮されませんでした。
 また、金融緩和の方法として量、マネタリーベースの増加だけでなく、質的な緩和としてETF(上場株式投資信託)、REIT(上場不動産信託)や民間の社債を購入するという政策も実施しました。質的というのは、日銀がこれらの金融商品に付随するリスクを負担するという意味です。中でもETFの購入が額も大きく、株式市場に影響を与えてきたと考えられます。現在、日銀のETF保有額は37兆1160億円(2023年9月末)に達しています。暴落時に買い支えるといった方針ではなく、日々の株価の動きに対してスムージングオペレーション(※)的な買い入れを行なったのであり、安倍政権を支えるという政治的な動機にもとづいたまったく正当化できない株価釣り上げ政策であったと言えます。

金融行政の変遷

 1990年代以降(バブル後)の金融行政のあり方は、銀行業界に対し、統合を促しながら、従来的な貸出業務を増やせとハッパをかけるようなものでした。バブル後、官庁の再編が行われます。1998年に金融監督庁が発足し、2000年7月には金融庁に改組されました。当時の金融機関の抱える不良債権に対して、的確な引き当てを行い、不良債権処理を進めるため、金融機関へきびしい検査が行われるようになりました。検査は、検査マニュアルとなる金融検査評定制度にもとづき、基本的要素である「経営管理(ガバナンス)態勢」のほか、11 (「金融円滑化編」「法令等遵守態勢」「顧客保護等管理態勢」「統合的リスク管理態勢」「自己資本管理態勢」「信用リスク管理態勢」「資産査定管理態勢」「市場リスク管理態勢」「流動性リスク管理態勢」「オペレーショナル・リスク管理態勢」)の評定項目について、A、B、C、Dの4段階評価を行うものでした。
金融庁によるこの検査には必ずしも客観的な数値基準があるわけではなく、融資の個別性を無視して処理を促すものであったりしました。このため多くの金融機関は萎縮し、いわゆる貸し渋りの原因となってしまいました。そのため、金融界や中小企業からの不満の声も大きくなり、2019年、金融庁はこの金融検査マニュアルを廃止しました。金融庁はそれまでのきびしい検査より、むしろ金融機関に積極的な経営態度を求めるようになったのです。
現在の金融行政の基本的な考え方においては、「金融システムの安定は極めて重要な目標であるが、これだけを究極の目標であるかのように追求する結果、金融機関がリスクをとることに対して過度に萎縮し、金融仲介機能が十分に発揮されない事態となれば、経済や企業の持続的な成長を阻害し、結局は金融システムの安定すら困難にしかねない」とし、むしろ金融機関のリスクテークを阻害しない金融検査を打ち出しました。
しかしながら、こうした金融庁の態度変化によっても、多くの金融機関が不動産などの担保主義から脱し、貸出先の事業評価によってリスクをとる融資を拡大していくことにはなっていないのが現実です。

(※) スムージング・オペレーション。中央銀行が金融資産価格の乱高下を防ぎ価格変動を緩やかにするように市場に介入すること


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