月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第20回 利潤の分配

月刊「まなぶ」2024年8月号所収

資本の利潤とは?

 資本の利潤というと、企業が発表する経常利益や税引後利益がすぐに思い浮かぶかもしれません。しかし、これらは利潤の一部を指しているに過ぎません。企業会計上はコストとされている部分にも資本の利潤の一部を成している部分があります。
 利潤は資本が生産物(またはサービス)を売って実現した価値から、賃金など労働力のコストや原材料・部品・エネルギー、また設備や建物などの減価償却費といったコストを差し引いたものです。マルクスは賃金などの労働力のコストを可変資本と呼び、原材料・部品・エネルギーや減価償却費といったコストを不変資本と呼びました。後者は単にその価値を生産物に付け加えるだけであるのに対し、前者は実際の具体的な労働を資本に提供することで賃金以上の価値を付加するからです。利潤は労働が付け加えた価値と労働力の対価として支払われた賃金などとの差額であり、ここに労働の搾取の構造があります。
 では企業が計算して発表している企業利益以外にコストとされているどのような項目が本当は利潤の一部なのでしょうか?例えば、企業が土地などの不動産を賃貸して事業活動に利用しているとすると、その賃貸料は利潤の一部が不動産の所有者に分配されたものです。不動産の所有者は、不動産を企業に貸すことによって、利潤を受け取ることになるわけです。
 また企業が他人の特許による技術を利用して特許料を支払っているとすると特許権という資本への支払いであり、これも利潤の一部が特許権所有者に分配されていると考えるべきでしょう。著作権料も同様で、現在はコンピュータ・ソフトウエアの著作権料が大きな規模になっています。
 企業が営業利益を計算するときには、これらの賃貸料などはコストとして控除されています。
 現在の日本は低金利のために額が小さくなりましたが、企業の借り入れや社債の利子も利潤の一部です。銀行などの貸付資本や社債の所有者は資金を企業に貸すことで、利潤の一部の分配を受けているのです。支払い利子は経常利益を計算するときには控除されていますが、これも企業の事業活動からの利潤の一部だと考えるべきでしょう。一方、経常利益の計算では外部への投資による金融所得などが利益として加えられることになります。これはその企業の事業活動からもたらされる利潤ではなく、他の企業などの利潤の一部が分配されてきている部分と考えるべきでしょう。日本の大企業の多くは金融収支が黒字で、営業利益よりも経常利益の方が大きくなっている実態があります。

配当と内部留保

 企業は事業活動から得た利潤とともに利子など外部への投資による収益を得ます。外部からの投資に対する支払いもあり、これを営業利益から差し引きしたものが経常利益となります。この他に不動産などの資産の売買による損益を加えたのものが、法人税など税金がかかる前の利益となって税引前利益とされます。
 税引前利益から法人税や法人事業税が払われて税引後利益となります。つまり、この段階で、資本の利潤は政府にも分配されることになります。
 税引後利益は法的には企業の株主資本に帰属する利益であり、株主に利潤の分配される部分だということになります。しかし、税引後利益が直ちに株主に支払われるわけではありません。日本の上場企業の場合、税引利益のうち株主配当として支払われる割合(配当性向)は32.63%(2023年度、日本取引所調査)とされています。つまり、税引利益のおおよそ3分の1は株主に還元されていますが、残りの3分の2は企業の資金になっています。損益計算書では、これを内部留保と呼びます。
 企業の資金としては内部留保のほか、コストとして計算される減価償却費が資金となり、内部留保と減価償却費の合計(フリーキャッシュフロー)が、新たな投資資金となります。ただし、企業の投資資金はこれだけで賄うというものではありません。企業を個別に見れば、資金が余剰になる企業も不足になる企業もあります。資金が余剰になった企業は銀行預金や金融投資を増やすことになり、回り回って資金不足の企業の借り入れ増や増資・社債発行による資金調達を満たすことになります。
 また個人の貯蓄の増加(資金余剰)も預金や証券投資を通じて企業の資金不足を満たすことになります。現代の先進資本主義国では、この資金余剰と資金不足をマッチさせるのは、一国内ではなく国境を超えた国際的な資金移動で行われています。日本の企業の資金余剰が外国の企業の資金不足を賄うといった具合です。

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