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そこに、覚悟はあるか【東京ヴェルディ 2020シーズンプレビュー】

ヴェルディの目指すサッカーを一言で表すと何になるのだろうか。

俗に言う「攻撃的サッカー」に分類されるのだろうか。
はたまた、「ポゼッションサッカー」というものになるのだろうか。

しかし、昨季の戦いを見ながら、筆者は上記のような表記には違和感を覚えていた。

決してヴェルディは常に攻撃的というわけではない。
例えば、少し早くなりつつあるゲームのテンポを落とすため、あるいは味方に適切な立ち位置をとらせるために、ヴェルディはゴールを常に狙うわけではなく、あえてボールをゆっくり回す。
これは俗に言う「守備的なポゼッション」であり、マリノスのように常にゴールを狙うために、運動量でもデュエルでも上回ろうとするサッカーとは一線を画す。

「ポゼッションサッカー」とはボールを保持することが目的となるサッカーだが、それも何かしっくり来ない。
例えば、昨季のレノファ山口戦、ボールを奪いに前に出てきた相手の背後を幾度となく突き、快勝を収めた。
永井監督自ら「プログレッションサッカー」(前進するサッカー)と表現するように決してボールを保持することが目的ではないことは明確であり、ポゼッションサッカーと見られてしまうことこそチームが上手くいっていない証左であろう。

もちろん、「攻撃」「ポゼッション」はチームにとって重要な要素の一つであることは間違いないが、このようにヴェルディが志向する複雑なサッカーを一言で言うには物足りない。
では、どのような表現が適切なのだろうか。

「90分間、ゲームの主導権を握り続けるサッカー」

筆者は考えた末に、以上のような表現に落ち着いた。

この表現であると、永井サッカーにとって重要な要素「相手を見る」といった要素や「主体的」というサッカーの特徴も内包される。

では、どのようにヴェルディは「主導権を握り続ける」のか。
そして、私たちはどのようにそれを評価したら良いのだろうか。

その主導権を握る手段こそが指揮官拘りの「ボール保持」である。

少し話は脱線するが、ここに、異論があるという議論は筆者も理解できる。

近年、65%以上の支配率になると勝率が落ちる傾向にあるからだ。

これに対し、ロティーナは不確実性の多いトランジションの局面を嫌い、保持局面と非保持局面を繰り返すことで試合を支配しようとした。
守備局面は「エラーを避ける」ことを徹底し、保持局面はビルドアップを整備して2つの局面でゲームを支配しようとした。

だが、本記事は永井サッカーの本質を探ることが目的なので、ボール保持の効果と指標について考察したい。

ここでいう「ボール保持」の定義は

ビルドアップ→前進→崩し→即時奪回

とする。

ビルドアップのメカニズムの構築とゲームの主導権を握ることは相性は良い。
なぜなら、自分たちで相手のリズムを見ながら、プレーの判断を変え、攻撃を行うことができるからだ。

ロングボールがボールを前進させる主な方法であれば、セカンドボールを拾わなければすぐに相手ボールとなってしまう。
つまり、ロングボールでの前進方法をチームの原則などである程度共有していたとしても、そこに明確な再現性を生み出すことは難しい。

Jリーグでもビルドアップの構築に注力するクラブが増えたのも再現性を求めるがゆえだろう。

こうして、適切にボールを前進させ、相手を押し込み、即時奪回のサイクルを作り出すことができれば、相手は攻撃を行うことができない。
なぜなら、ボールを奪うことができないからだ。

これこそが、昨季何度も永井監督が何度も口にした「狙いの半分は成功」の真意だろう。
ボール保持率を高めることで、そもそも相手から攻撃を行う機会を取り上げるという狙いのことだ。

ただ、いくらボールを保持していても即時奪回に失敗し、敵に攻められ、ゴールを許すのでは意味がない。

だからこそ、私たちがヴェルディが相手を押し込めているかどうかを評価する際には、「ポゼッション率」「被カウンター数」「被シュート数」から総合的に判断するべきだと思う。

ただ、ポゼッション率は相手が前から来る場合には裏を狙う回数が多くなり、低下しがちになるなど評価の基準に入れるべきでない試合もあることは注意である。

ここまでのおさらいである。

ヴェルディの目指すサッカーを「90分間、ゲームの主導権を握り続けるサッカー」と定義し、主導権を握り続ける手段としてヴェルディは「ボール保持」を選択している。
ボール保持の効果としては、相手を見てプレー判断を変えることで「再現性」を高めることができること、相手から攻撃を行う機会を取り上げることができることを説明した。
そして、私たちがヴェルディを評価するには「ポゼッション率」「被カウンター数」「被シュート数」から総合的に判断するべきであることを論じた。

さてしかし、サッカーという競技は相手に勝つためには当然の如く「ゴール」が必要である。

この点こそ、昨季最も苦しんだものだった。

相手が前から出てくれば、その背後を突く攻撃はできた。
しかし、ブロック守備を敷かれると全く相手を崩すことができなかった。
特に5バックの相手には。

昨季までの敵陣でのボールポゼッションは相手に与える「恐怖」がなかった。

ゴールを奪うことから逆算すると、、、

ゴール→ペナルティエリア内でのシュート→ポケットを崩す→DFラインの相手を引き出す

という過程が最もヴェルディが目指すものである。

昨季はそもそもDFラインの相手を引き出すことができていなかった。
前述したように、相手が前からかけてきてくれると空く背後のスペースを効果的に活用することができるのだが、自分たちで意図的に相手を食いつかせることができなかった。

では、相手を引き出すためにはどうすればよいのだろうか。

大きく分けて3つある。

まずは、立ち位置である。

これは、常に意識しなければならないのだが、相手との間の中間ポジションに立つことで、相手に常に二者択一を迫ることができる。
見ている人もヴェルディの選手が相手と相手の中間にポジションを取ることができているか、には常に注目していただきたい。

2つ目はブロックの間へのパスだ。
いわゆる、バイタルエリアに何回ボールを入れることができるかという意味である。

昨季のヴェルディのボール回しは敵の守備陣形の外回りにボールが回る「U字型」のパス回しであった。
しかし、それでは崩れない。
敵と敵の間にボールを入れなければ。

そこで、バイタルエリアへのパスの本数は重要な指標となるだろう。

3つ目はブロックの背後へのパスである。

永井監督も「ゴールはスルーパスとワンセット」と語るように局面を変えるDFラインの背後へのパスは相手にとって警戒されるものになる。

ブロックの背後へのパス、あるいはミドルシュートは敵を食いつかせるための材料であり、有効な手段である。

これから、シーズンを通じてどのようなメカニズムで敵を食いつかせるのかという点については特に着目して記事を作成していきたい。

崩しの局面の狙い、課題、そして私たちの評価方法は以下のようになる。

狙い:ゴール→ペナルティエリア内でのシュート→ポケットを崩す→DFラインの相手を引き出す

課題:DFラインの敵を釣り出す

評価方法:立ち位置、バイタルエリアの活用、ブロックの背後へのパス


筆者も今季を通じて、実際の試合のシーンを抽出しながら永井サッカーの本質について引き続き考察していきたい。

永井サッカーの完成はかなりに難しい。
なぜなら、それには常に完璧な判断と正確な技術が求められるからだ。
故に、完璧を求めることこそ困難なのかもしれない。

しかし、適切な立ち位置を学ぶことである程度のリスクマネージメントは出来るようになっていくし、試合を重ねる事で選手も感覚を掴んでいくはずだ。
だからこそ、最終順位はそこまで心配していない。
心配はおろか、今オフで優勝も狙える人材が揃ったと思っている。

ただ、永井サッカーはJリーグでは異端児でもあり、それ相応のマインドセットが求められる。
はっきり言って、その点については未知数であるのが現状だ。
ボールへの異常な執着ともいえる「狂気」、上手くいかなくても自分たちは間違っていないという「信念」、自分たちを信じ、ボールを常に渇望し、敵を圧倒するというミッションに挑む「野心」が不可欠であるのは間違いない。

ヴェルディに関わる全ての者よ、「覚悟」はあるか。